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「やっぱり見えていたのですネ。見えなくなったのかと思いましたヨ」
小指の爪サイズの小さなてるてる坊主が、身体には見合わない大きな声でぼくに話しかけてきた。
「昨日はすみませんでしたネ。つってもらえると思ったら、ついつい興奮してしまいましテ…」
申し訳なさそうにシュンとしているてるてる坊主は、昨日とは違ってなんだか可愛い。でも興奮するとあんなに怖くなるのか……
「それでですネ。昨日一晩アナタのことを観察させていただきまして、あなたの願いがわかりましたヨ」
え?!
驚いたぼくは、てるてる坊主をまっすぐに見つめた。
「何で?!昨日はぐっすり寝てたから夢も見てないと思うんですけど?」
「ふふッ」
なんだか勝ち誇ったようなてるてる坊主を見て、ぼくはなんだか恥ずかしくなってきた。自分の願いが他人に知られてしまっただなんて。顔も熱い。もしかして真っ赤になってる?
いやいや。本当はぼくの願いなんてわかっていないのかもしれない。言うだけなら何とでも言えるし。
「それでですネ。つっていただけるなら、願いを叶えて差し上げられるのですガ…」
「ん-。願いが叶うのは嬉しいけど、昨日みたいに怖い目に合うのはもう嫌だな…」
もじもじしているてるてる坊主をチラチラと見ながらぼくがそう言うと、てるてる坊主は手のひらサイズまで身体を大きく膨らませた。そして胸を張ると自信満々にこう答えた。
「大丈夫でス!同じ過ちは二度と繰り返しませン!泥舟に乗ったつもりで安心してくださイ!」
ぼくは沈められてしまうのか…?
まあいいや。
怖くないんだったらつってみよう。願い事が叶ったらラッキー。叶わなくても今と変わらないんだから。それに、いつまでも付きまとわれるのもなんだか大変そうだし。
そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか秘密基地に着いていた。
「つってあげるよ。でも怖いのは無しだからね?」
ぼくはそう言うと、てるてる坊主の首に巻きつけられた紐を手に持つ。近くに伸びていたぼくの顔の高さくらいにある枝に、てるてる坊主から離れた方の紐を括り付けた。
すると、てるてる坊主は嬉しそうに浮かぶのをやめ、ぶらんぶらんと枝からぶら下がって揺れはじめた。
「ありがとうございまス。では、願いを叶えましょウ」
そう言うと、てるてる坊主はぼくと同じ大きさにまで膨れ上がって、ぼくの顔に自分の顔をぐぐっと寄せてきた。こわいこわい。昨日とは違った意味で怖いじゃん。
てるてる坊主の圧迫感に耐え切れなくなったぼくが思わずその場に座り込むと、てるてる坊主はぼくを頭からすっぽりと包み込んだ。
真っ暗だ。何も見えない。
暗闇の中で、ぼくは「聞いてないよー」と情けない声を上げながら、しばらく泣いていた。
どれくらいたったのだろう?
ふと気が付くとてるてる坊主はぼくと同じ大きさになって、座り込んだぼくの横にしれっと座っていた。
「さぁ、願いを叶えましタ。あなたにはもう、特別な力がありまス。それに、普通の人からは見えませんが、能力と共に、見た目も少し変化していまス」
てるてる坊主には、本当にぼくの願いがわかっていたんだ。
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