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「過労で倒れた時の気持ちを、彼女はこう書いています。
『私の全てが空っぽになりました。
しかし、とてもすがすがしい気持ちでした。
病室の窓から爽やかに吹いてくる風も、
遠くに見える山も、
季節によって変わる光の輝き具合も、
まるで今までずっと近くにあったなんて思えませんでした。
私の世界は、あの時広がったんだと思います」
元は、ページをめくる。
「私という人は、
一生懸命で、それはもう一生懸命で。
しかしその繊細さにとにかく鈍感で、
気がつけばいつしか自分で自分を追いこんでいるのです。
窓の外を見てください。
外からくる世界を感じてください。
ゆっくり立ち止まることは、決して悪いことではないのです」
本を閉じると、会場中がシンと静まり返った。
彼はまた聴衆を見つめ、ここから考察した事,そして最後は自らの決意を述べる。
「自分の役目は、多くの人の心を食によって解放することだと思います。
いろどりのある食事が、食べる人の生き方をもいろどっていく,その気づきを与えていける栄養士目指して、僕はこれからも勉強を続けていくつもりです」
頭を下げれば、拍手がさざ波のように広がった。
やがて彼が檀上を去ると、変わりにグレーヘアの学長が登壇した。彼女はマイクの前に立つと、皆の好奇の目を一身に受けながら微笑む。
「まさか私の著書を研究された学生さんがいたとは…」
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