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昼を過ぎれば、なお教室の中は温かく。
春の匂いはいよいよ高波のようにうねって、私の心の中を満たしていく。
あまりに外の景色が美しかったから、急いで机を片付け学校を出た。
今ここに見える夕日を、帰りの坂道でも眺めたかったから。
発表会終了後、学長は話がしたくて元を呼び止めた。
すると彼は振り向くなり頭を下げる。
「すいません。さっき先生の著書に感銘を受け、栄養士を目指した様なことを言いましたが、少し嘘をつきました」
「ええ」
「実は小学生だった時、家庭科の授業がすごくおもしろくて、食に興味を持ったんです。その先生は先生なりたてで、しかも料理なんかちっともしない人なんですけど、教えることに対するひたむきさとか頑張りとか、そういうことの全てが、自分にこの世界に興味を持たせてくれました」
「そうでしたか」
「大学を決める時、偶然手にとった学長の著書を読んで、小学校の時の先生が思い浮かびました。一生懸命やる人自身は確かに疲れますけど、私はそんな人達から自分を変えるチャンスをもらっているんじゃないかと思うんです。だから今度は、私がその人のために恩返しをしたい。
栄養士になるしかないと思いました」
透き通った瞳に、窓から射す夕日が溶けて輝いていく。
学長はしっかりとうなずいた。
「夢中になって料理をしている、子ども時代の貴方が目に浮かぶようです」
「そうですか?でもその先生、本当にひどかったんですよ!教科書通りにやれという割には、自分は斜め読みしてきて間違うし…」
「フフ。でも興味を引きつけた、その先生の熱意はすごいと思いますよ。
もしくは貴方の、惚れた欲目だったりするのかしら?」
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