2人が本棚に入れています
本棚に追加
"しくじったな…"
絵里先生の机を片付けて、雑巾で拭いて、今日の業務は終わった。
無性に涙が込み上げる中、弁当屋へ行くかどうかためらったけど、足が自然と、その温かい灯りに吸い寄せられる。
昔の教え子は私を見るなり、何も言わずにエプロンをはずす。
それから奥にいる人へ「じゃ、すいません」と一言かけ、ビニール袋を手に提げてはカウンターから出てきた。
私は近所の公園で元と2人,お弁当をつつきながら彼に絵里の話をした。
私は転任して、そして彼女は育休明けでお互い新鮮な気持ちで4月を迎えたこと。ただ私達の職場はいちいち保育園に呼び出される人に寛容でなくて,そして自分自身、絵里に気を配ることができなくて。
「ホント、しくじった私。もっとサポートしてやらなきゃならなかったのに」
「……」
すると弁当をいち早く食べ終わった元は、自分のリクルートカバンからA4サイズの資料を取りだし、私に渡した。
「俺の卒業研究。いちよ形にはなったから、もしよければ時間のある時に読んで」
タイトル欄には【『いろどり』に寄せて】と書いてある。
聞けば、この『いろどり』とは、有名な管理栄養士が書いた自伝のことらしい。
彼はこれを読んで、自分の将来を選んだのだとか。
「ありがとう、ゆっくり読む。というかそっか、もう卒業なんだね。次のステップは?」
「勿論、栄養士として働くつもり。ただ今日も面接受けてきたけど、場所はまだ未定」
「じゃあお弁当屋さんは、もう今期いっぱい?」
「うん」
「そっか」
歳をとると本当に嫌になっちゃうわ。
自然と目がしらが熱くなっちゃう。
最初のコメントを投稿しよう!