お母さんの二乗

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 高階(たかしな)麻里(まり)は緊張していた。結婚しようという相手の男性の実家を訪ねるのだから、誰でも初めての時は緊張するだろうが、麻里の場合は、もう一つ緊張の理由が加わっていた。  彼女の結婚相手、森本武司(たけし)の両親はちょっと変わっている。そもそも両親と呼んでいいのかどうか、それも微妙だ。  教えられていた住所へ、スマホの地図に従って歩いて行くと、巨大なタワーマンションが目に入った。  郊外の一戸建てではあるが、狭苦しい自分の家とは雲泥の差だな、と思いながら麻里がエントランスの外側のドアをくぐると、ガラスの壁で隔てられた大きなスペースの向こう側にいた武司が、コンコンとガラスを叩いて麻里を迎えた。  武司が内側からエントランスの内側のスライド式ドアを開いた。なんと自動ドアだった。 「ようこそ麻里ちゃん。ママたちがお待ちかねだよ」  武司が笑顔でそう言う。麻里はさっきまで武司がいたスペースをまじまじと見た。床にはふかふかの絨毯が敷いてあり、北欧風のテーブルが1台、椅子が数脚置いてある。 「ねえ、そこ何?」  武司は麻里の指先が差すスペースを見て、きょとんとした表情で答えた。 「何って、共有の応接スペースだけど?」 「共有なの?」 「宅配便とか業者さんが訪ねて来た時に使うんだよ。あ、そうか、麻里ちゃんちは一戸建てだから知らないんだね」 「ねえ、あたしたち、ひょっとして身分違いの恋ってやつ?」 「あはは、そんな大げさな。さ、行こう。我が家は20階だよ」  二人はエレベーターに乗り込んだ。
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