思い出はすべて…… 6-2

1/1
前へ
/23ページ
次へ

思い出はすべて…… 6-2

 わたしは自分が本などろくに読んだこともないのに、三輪くんに投げつけられた言葉に(いきどお)りをおぼえていた。 「でも、磯崎さんが(うらや)ましいな」 「どうして?」 「そんなにイヤな学校から逃げ出したじゃない。ぼくにはできない」 「もしかして、三輪くんも学校きらい?」 「好きかきらいかでいえばきらいだな。それにね、ぼくの父が言ったことがけっこう刺さったから」 「なんて言ったの? 三輪くんのお父さん」 「中学は思い出があとあとまで残る場所じゃない、そういうのはすべて高校に詰まっている、って」  わたしは思わずうなった。三輪くんのお父さんあっての言葉なんだろうけど、一つ一つの言葉の重みがちがう。 「それはそうと」  と三輪くんは話題をかえた。 「あしたも図書館には行くの?」  わからない、とわたしは言った。 「今、お父さんの帰宅待ち。たぶんだけど、家族会議が待っていると思う」 「ぼくが弁護に行きたいところだけど……がんばってね。話がまとまって、磯崎さんが(ゆる)されるのを祈っておく」 「うん、ありがとう、もしなにかあったらまた電話していいかな?」 「もちろん、じゃ、おやすみ」と三輪くんは電話を切った。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加