あたたかい言葉 2-1

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あたたかい言葉 2-1

 うちの中学校では、どこもそうかもしれないけど、ゴールデンウィーク明けあたりから水泳部がトレーニングをはじめる。  ああ、夏がはじまってしまう。  プールから聞こえる冷たい水を切る音やホイッスルの音。  もともと体育の授業はイヤでイヤでたまらなかった。  水泳部が動き出したということは、少しあとに体育の授業が水泳になるということだ。  ネットでも同意見を目にしたけれども、学校指定の水着がとにかく恥ずかしい、そんな子は思いのほかいた。からだのラインが目立たない、と繊維メーカーのサイトに書いてあったけど、目立たない、どころか丸見えもいいところだ。  それでも中学一年、去年はなんとか授業に出られた。  今年はもう無理だ。 「(みどり)、体操の授業の水着、出しておいたから」  お母さんがそう言って、一見ワンピース・タイプに見えるセパレートの水着を用意してくれた。お母さんは体育の授業のことを必ず「体操」と呼ぶ。  わたしはこの体操って言葉の響きからして気にくわない。  体育もスポーツも、どちらも言葉からしてイヤだけれど、「体操」にはもっとイヤな響きがある。
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