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 この本は、少しの空き時間で読み切れるような、短いお話を集めた物です。忙しい毎日を過ごす、あなたにこそ読んで貰いたい。と、言いつつ、忙しく無いあなたにも読んで欲しい。そう思って書きました。  浅見一葉は壇上に立ち、少し緊張した面持ちのまま、そう話始めた。空席が目立つ階段状の座席にまばらに着席した生徒達は、キョロキョロと落ち着きなく周りを見回していたり、居眠りしていたりと思い思いに過ごしている。  今日は、東京のある大学で講義をしている。始めて来た学校での講義ということもあり、生徒との距離を縮めつつ、自身の緊張をほぐす為に放った"とっておきの導入"は、講堂の静寂に吸い込まれてしまった。軽く咳払いをし、真剣に講義を進める事にした。 「つまり、この時の描写はキャラクターの感情の動きを、風が吹くという場面の動きで暗に示しているのですね。」  全くリアクションの無い生徒へ講義を続けつつ、ふと考える。大学の講義って、意味あるのかな。この講義をきっかけに、私の影響を受けて映画監督になる人は、確実に居ないと思うんだけど。 「と、言う事で本日の講義は以上となります。ご静聴、ありがとうございました。」  丁寧に頭を下げる。これだけの時間一人で話していたので、緊張も解けた。ちょっとした嫌味でご静聴という言葉を使ったが、誰も気に留めてはいないだろう。一葉は壇を降りると、そのまま講堂を後にした。  この変わらない日常にも慣れて、何年になるだろう。いつも通り、人気のない通りを抜けて職場と自宅を往復する日々だ。自宅からは片道1時間程の道のりだが、職場が景色の良い高台にある為、歩きながら眺める大自然は、気に入っている。  職場につき、自分のデスクへ座ると、昨日講義のついでに撮影した映像を編集しはじめる。あの日からガムシャラに作り続けて来た映画は、これで何作目になるのだろうか。  未だに自分以外の生き残りには、巡り会わない。本当に人類は絶滅してしまったのだろうか。  
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