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 疲弊しきった身体を引きずって、私は自宅マンションにやっとの思いで帰宅した。  時刻はとうにてっぺんを過ぎている。何をするにも気力も湧かず、鞄を放るとベッドに倒れ込んだ。 「こんなハズじゃなかったのになぁ……」  枕に顔を埋めてぼやく。  私は販売系に勤める社会人二年生。金銭面で親に迷惑をかけたくないから、と高校を出てすぐに職に就いたのだが、その選択は間違いだった、と痛感している。就職先は、いわゆるブラック企業だったのだ。過重なノルマに上司のパワハラモラハラエトセトラ……私の毎日から潤いはすっかり消えていた。  学生時代ずっとつるんでいた友人達は、毎日のようにSNSを更新してはサークル活動や合コンの写真をアップしている。彼女達は私とは比べものにならない、キラキラと充実した日々を過ごしているようだ。進路が人生の明暗を分けることになるとは、学生の頃は想像もしていなかった。惨めになるだけだと解っているため、彼女らとは一切連絡を取り合っていない。 「化粧だけでも落とさなきゃ……お風呂は……シャワーだけでいいよね。あーもー明日も朝早いってのに、何時間寝れるかな」  誰に聞かせることもない独り言を呟きながら、必要最低限の身支度だけを整えて眠りに就こうとして、寸でで気づく。 「危なっ、ログイン忘れるとこだった」  パソコンを開いて、ゲームのタイトル画面を開く。荘厳な音楽が鳴り止むと『アナザーゲート』というタイトルロゴが浮かび上がる。  アナザーゲートとは、世界中の人とリアルタイムでコミュニケーションが取れる、対戦型RPGゲームのことだ。ある日異世界への入り口が開き、プレイヤー各位は異世界に赴き現実を侵食するモンスターを倒す……といった、ありきたりだがやり甲斐のあるシナリオとなっている。  私にとって睡眠時間を削ってでもやり込む価値があるのがアナザーゲートというゲームだ。というより、このゲームがあるからこの二年、どんなに辛くてもなんとか生きてこられたと言っても過言ではない。ゲーム内なら、ミッション達成に必要な過重ノルマも苦にならないし、ミスをしてもギルドメンバーは誰も糾弾せず、優しくフォローしてくれる。  なんて優しい世界なのだろう。現実に居場所のない私の、唯一の居場所こそこのゲーム。今や私の心の支え、生き甲斐となっていた。 「ただいま私の異世界(アナザー)! 聞いてよ、今日も上司に理不尽なこと言われてさぁ……」  ゲートに入るなり、私はチャット機能を使って愚痴を零し始めた。ギルドメンバーは口々に「大丈夫?」「無理しないで」「会社爆破しよっか?」などと励ましてくれる。なんとも心地よい時間。  ああ、現実に戻りたくないなぁ……私は寝る間も惜しんでチャットに没頭した。
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