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入店早々、レジ前に陳列して有った100円ライターを見ながら、裕司は唸っていた。
タイミング良く、女性店員が近くを通り過ぎようとしたので
「あのぉ〜」
「はい?」
「ライターって、これで全部ですかぁ?」
「どんなライターですか?」
「……色んなの、有るじゃなぃ?」
「…何て言うんだっけ? …ジッポですか?」
・・・この女は、煙草を吸わなぃ人だなっ?
裕司は、勝ってに想像して喜ぶ。
「こんなのは、有るぅ?」
裕司は徐に、黒のタイトな長ズボンの右ポッケから、プラズマライターを取り出し、その女性店員に見せる。
「んーー……」
「こんな風に、充電が出来るヤツなんだぁ」
「少々、お待ち下さい」
女性店員は、インカムを使い、ライターに詳しい人へ助けを求めた。
「あちらの方に有ります」
「……どちらぁ?」
「ご案内しますね」
裕司は、自分独りで向かう事より、この女が一緒に向かうよう、敢えて促した。
流行りなのか、インナーヘアーだけ脱色して、今はその髪もまとめてポニーテールにしている。色白で細めのこの店員。
・・・僕好みの体型じゃないけど、見るからに若そうで、初々しいなぁ。
「この辺に有るよー!」
指輪やアクセサリーや煙草やらを品揃えしているテナントの女性店員が、ライターの有る所を、細め店員に知らせる。
・・・ぁ! この女の方が理想的だっ。
そのテナント店員は、裕司好みの堂々たる太めだった。しかし、客である裕司に対して
全く接客をして来なかった。
ゆえに、値段が3000円弱って事もあり、スッとそのコーナーから、何も買わずに立ち去った。
ブラブラとドンキ店内で、物欲と遊んでいると『遊具』が目に止まった。ハウス用としての購入許可を施設長のオギさんから取っていたから、定価ではどれ位するのかを、参考として写真に収めた。
空腹ではないが、昼食時な為、何かを探した。お寿司やマック等の外食チェーン店で食す気分でなかった為、雨の降り頻る中、店外の屋根下に身を隠し、ドンキ内で購入したあんこの塩パンとカルパスをストロベリーソーダで流し込みながら、禁煙場で喫煙した。
多くの車が行き交う駐車場を眺めながら、すぅ〜はぁ〜していると
・・・あれ!? ま、まさか!
裕司はスマホに保存して有る写真達の中から、ハウス用に使っている車のナンバーを確認したくなった。
・・・はぁ、……違った。
ハウスから、こんな近場で未だうろちょろしている姿を、決して施設の仲間に見られたくない。
・・・ぁ、焦ったぁ〜。
・・・今回は、いっその事、近場休日にしよっかなぁ?
裕司は、辺りをキョロキョロし、オフハウスが近い事に気付いた。
・・・よく行く店だけど、今日はいい服が有るかも?
入店すると、夏物800円以下の商品70%offセールの最終日のお知らせが貼られていた。
・・・おぉ!?
裕司の曇っていた心は、一気に晴れた。
Tシャツを順番に品定めしていると
・・・ぁ! このデザイン、クオンっぽいなぁ。ぁ! これ、チョウ君、着てそ〜。このシンプルな大人感は、タツヤだなっ。は! 長袖のゲンキのはぁ……、値下げせずかっ。
今回のハーシ休日を決めてから
「施設の事から完全に離れて、1人の依存症者として、自由に行動してみる訓練なんだ!」
そんな感じを仲間達に豪語していたくせに、常に仲間達の事が頭にチラつく。
14時過ぎ
裕司は電車に乗り込んでいた。
・・・オフハウスで買った5着の衣類が入った袋、持ち歩くの煩わしいなぁ。
「行く時が、こんなに乱れていたらぁ、鹿児島から戻って来れない可能性も有るのぉ?」
「…その可能性も、無いとは言えないです」
駅員は、申し訳なさそうに、答える。
・・・その時は、その時かっ!
裕司は、どうしても天文館へ行かねばならぬ理由など無い。ただの意地になっていた。
570円掛かったが、鹿児島高校の人達が制作した、とっても素敵な絵が駅構内で出迎えてくれたので、裕司は嬉しい気持ちになれた。
鹿児島駅を出てすぐに、外の騒がしさに気付いた。
広場の一画で、出店が何店舗も出店したり、ステージで浴衣姿の人達が催しをしていたりで、裕司は引き寄せられた。
「ここ、入ってもイイんですかぁ?」
裕司は受付っぽい左右2箇所の、話したい女性の方を選んで、話し掛けた。
「はい、こちらにご住所と氏名と電話番号をお願いします」
「え? 何でですかぁ?」
「…コロナ対策です」
「あ〜、誰かが感染してたってわかったら、クラスターしてないかの連絡が来るのね」
「…そ、そーだと思います」
裕司は、会話を引き延ばす為だけに、わざと下らない言葉を吐き出す。
記入し終わった裕司の右手首に「目印です」と、輪ゴムを通してくれた。
・・・肌色ぉ!
半時計周りで出店を見て周る。
「美味しいですよー、冷えてるよ」
・・・パインって気分じゃなぃ。
「こちら、ご試食でーす」
小袋に梱包したクッキーっぽいのを渡された。
「!……貰っていいのぉ? ありがと」
更に、手作り小物店や猫柄のお面やメダカの販売店も有った。
ふと、見ると『アイス ストレート チャイ』と書かれた貼り紙に気付けた。
無類のチャイ好きとまでは言えぬが『おかまハウス鯉』で働いていた時に、そこのママ(性別不詳)の手作りチャイの感動を、未だに根強く『チャイ』の文字を見ると、必ず飲みたくなるのだ。
「チャイ!? くっださ〜ぃ」
「ありがとうございまーす」
「……甘く出来ますぅ〜?」
「甘くする前に、1度、飲んでみては?」
・・・飲む前に「味を変えて?」といのも、失礼な話しだったね。
ゴクッ
「…ぅん、美味しっ。もちょっと甘くして」
このタイミングで、裕司は¥300をトレーに乗せた。
「はい、どうぞ。ありがとうございます」
更に、ケバブやクレープ店も有ったが
・・・早く、チャイで一服したぃ。
そんな欲求が強まり、催し広場から出ようとした。
「この輪ゴムはぁ? ……返すぅ?」
「あ、そのままでいいですょ」
分かり切っている質問を、受付嬢が代わっていた為、敢えて話した。
鹿児島駅の目前に市電が待機しているのを確認し、近場で煙草の吸える場所をキョロキョロと捜索。
・・・ぁ! あそこで突っ立っている女性、間違いなく喫煙中だぁ。
裕司が近付いて見ると、ハッキリと煙を吐き出しているのが分かった。
・・・ん〜っ?
確かにその裕司好み体型の女性は、喫煙中だったが、店舗に設置していない為、携帯灰皿を利用してだった。
・・・騙したなぁ〜!
裕司にもっとフレンドリーさが有ったら
「え〜? てっきり喫煙場だと思ってココまで来たのにぃ……」
などと、その女性の所為にして、お詫びに「その灰皿、貸してぇ!」
と奪い、裕司が吸い終わるまでの間、女と喋れたのかもしれない。
まだまだ、躁状態を自在に引き出せない裕司は、無力さを痛感しながら、行き当たりばったりで喫煙場を探した。
やっと、日曜日なのにcloseしているが灰皿の有る店を発見し、念願のチャイ&煙草を実現させた。
・・・この紙コップの作り、画期的だなぁ。
一息ついたとこで
・・・いよいよ天文館まであと数分だぁ。
2人っきりの市電、ついに、スマホの充電が1桁になった。
・・・着いたら、真っ先にY!mobileに行かなくちゃっ。
今日の休日は、施設生活3年半において、初のフリーデイな為、ハーシこと裕司は是が非でもスマホに記しておきたいのだ。
施設仲間と一緒に何度も訪れた天文館だから、その度に目にしていた店舗だ。今回が初めての入店。
「いらっしゃいませー」
「充電だけをする事は出来ますかぁ?」
「はい、こちらに入れて……」
細身の女性店員が対応してくれた。
・・・外見、オーラ、全く持って好みじゃなぃぞ。
スマホの充電ランプを確認し、ロッカーをダイヤルロックする。
「あの〜、僕の〜、スマホのぉ、料金……、月々の支払いを〜、安く出来ませんかぁ?」
「かしこまりました、あちらのソファでお座りになって、お待ち下さい」
・・・「充電だけ」と言っておきながら、料金プランの見直しを依頼しちゃった。
「お待たせ致しました」
・・・男かょ!
裕司は、俄然やる気を失い「はぃ、はぃ」と適当に聞き流したい気持ちになっていた。
「引き落とし明細書とか、送られて来ているんだけど、それもお金が掛かっているならナシに出来ません?」
「はい、少々お待ち下さい」
すると、男性店員に代わり、女性店員がなぜだか対応し始めてくれた。
「あちらの席へ、どうぞ!」
・・・細身だし、目力が強めだけど、男より
マシかっ。
何だかんだ話し合った結果、来月分からハウスには一切、何の封書も届かなくなり、料金も¥200くらい安くなった。
約1時間くらい滞在していた為、充電も1時間分が入った筈だから、裕司は女との話しを切り上げた。
・・・確か、この通りを真っ直ぐ行くと、饅頭屋さんへ行き着くんだったょなぁ。
・・・何でぇ? ……お盆休みだとぉ!?
仕方無く、次に行きたかった店を目指す。
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