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次の駅は大きな川にかかる橋の上に造られていた。外の景色はどんよりとした曇り空になっていた。昼なのに、薄暗い。そんな空模様だった。
僕と少女は電車から降りて、ホームの端の手すりから外の景色を見た。
ゆっくりと流れる大きな川が見える。その川のほとりに女性が立っていた。小柄で肩口で揃えた髪が風に揺れている。少し距離があるはずなのに、こちらを、僕を見ているのが分かる。
「あの娘は誰?」
少女が僕を見る。
「あなたを見ているみたい。何だか、寂しそう、いや、怒っているのかな?」
「怒っているのかもしれないね。僕が昔大好きで、大学生の時に付き合っていた女の子だよ」
「大好きだったのに、別れてしまったの?」
「うん、今思えば本当に馬鹿みたいな事なんだ」
「聞かせて」
僕は少女の方を見ない様にして、話を続けた。何だか昔の事を語るのが、恥ずかしかったからだ。
「彼女が仲の良い男友達と、2人っきりで遊びに行った事があったんだ。僕に内緒でね。単に友達として遊びに行っただけらしいけど、僕はそれでヤキモチを焼いて、彼女と喧嘩をして、それで別れたんだ」
「ふうん」
興味なさそうに、少女は相槌を打った。
「大好きだったんでしょ?許せなかったの?」
「うん、あの時は無理だったね。彼女は謝ってきたけど、ダメだった。昔の話だけどね」
僕はホームの手すり越しに、彼女を見ながら、呟くように言った。遠くに見える彼女は、動かず、表情も変えずに、まだ、こちらを見ていた。
「お別れした事に、自分のした事に、後悔しているの?」
河原に一人でたたずみ、寂しそうにも見える彼女を見ながら少女は言った。その言葉は僕に向けられたものか、彼女に言ったものか分からなかった。
僕は敢えて、その答えを少女に聞かなかった。
「行きましょう。ここにもあなたが降りるべき駅で、降りなかった理由はないわ」
少女は僕の手を握りしめて、停車中の電車に向かった。
電車はまるで待っていたかのように、僕達が乗り込むと同時に走り出した。
窓から見える夜景が、流れ星のように流れ、過ぎ去って行く。
やがて流れ星の流れる速さが、ゆっくりになっていった。次の駅が近づいて来たのだ。
「後2駅で終点よ」
少女は言った。
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