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次の駅に到着した。
見慣れないホームに電車は滑り込んでいく。電車が停まりドアが開く。そこには夕焼け空が広がっていた。
ホームの周りは草原で、少し肌寒い風が吹いていた。草原の緑が、夕焼けの赤に染まっている。そして周りを見回すと、駅のホームのベンチに1人、若い男性が座っていた。
少し猫背で座る姿勢は、昔と何も変わっていない。あの頃のままだ。電車から降りてくる僕を懐かしそうに、目を細め見ている。
「和弘・・・」
僕は子供の頃からずっと一緒にいた、親友の名前を呟いた。もう2度と見る事はないと思っていた、親友の名前。
「友達かしら?」
少女の問に僕はうなずき、答えた。
「大切な友達だよ。小学生の頃からずっと一緒にいた。沢山バカもやって、沢山笑った。本当に大切な人だった」
「だった?過去形なの?」
「和弘は高校を卒業して、父親の経営する小さな運送会社で働いていたんだ。そして一年前ぐらいかな、運転中に飛び出してきた猫を避けて、電柱にぶつかった」
「・・・亡くなったの?」
「うん、当たり所が悪かったらしい。和弘らしいと思った」
思ったけど、納得できるようなものでも無かった。簡単に、受け容れられるようなものでも無かった。
今までいた人が、居なくなる。
今まで当たり前と思っていた世界は、簡単に、脆くも崩れ去ってしまう世界だ。
あの日から、あの時から、和弘の事故の連絡を受けて、病院でもう動かない和弘を見た時から、僕は変わっていく事を恐るようになった。
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