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「素敵なお友達ね」
車両に乗り込み、シートに座りながら少女は僕に言った。
「うん、会えて良かった。あの時の葬式からずっと、心に引っかかっていた物が取れた気がする」
「良かった」
少女は右の口角を上げ、クセのある笑顔を見せた。
「すぐ次の駅、終点に着くわ」
その言葉通り、電車はスピードを落とし始めた。車窓には見慣れた夜景が映る。毎日見ている風景。
最後に停車した駅は、僕がいつも利用している駅だった。そう、ぼくが降りるべき駅。
ゆっくりと電車は停車した。開いたドアから見える景色は、窓に映る景色と同じ夜の風景だった。
「僕は降りるよ」
「ええ、あなたが降りる駅。もう、間違えないでね」
「うん、大丈夫だよ。また、君と会えるのかな」
少女は例のクセのある笑顔で、悪戯っぽく笑った。
「きっと、いつでも会えるわよ」
その言葉に僕はうなづき、電車を降りた。
ドアが閉まると、その電車は無人となった。さっきまでそこに座っていた少女は、もう見えなくなっていた。
誰も乗せないまま、電車は加速を続け、走り去っていった。
「さあ、帰ろう」
気が付くと誰もいなかったホームには、帰りの家路を急ぐ乗客が早足で改札に向かっていた。いつもの風景、いつもの日常。
ホームの時計を見ると、いつもの帰宅時間。
僕はいつも通り、降りるべき駅で降りたらしい。
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