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「体験はどうでしたか?」
気付けば俺は和室に戻ってきていた。意識したつもりはないのに、正座をして座布団に座っている。
目の前の湯呑はまだ湯気を漂わせている。まるで一瞬で夢を三回見たような感覚だ。
対面に座っている女神は自分の湯呑を口にしながらこちらをうかがう。
「というか、一つでは何かを感じる前に死んだんだが……」
「まあ、どこもかしこも生きやすい世界とは限りませんからねぇ。それで、転生したい世界はありましたか?」
「いや……正直どこも転生したいとは思えなかった。これなら元の世界の方が安全だ」
「もちろん、元の世界で生き返ることもできますよ。国や地域は選べませんが、それでもいいですか?」
俺は湯呑のハーブティーを一気に飲み干した。喉が潤い、異世界酔いしていた頭が少しだけすっきりした気がする。
「元の世界で!」
「わかりました! 記憶はそのまま引き継ぎでいいですね? それでは二週目の人生、よい旅路を~」
女神はまた人差し指を回した。トンボの目を回すようなその動作で、俺の意識は再び和室から遠のいていった。
少なくとも自分が知っている世界なら異世界よりはるかに安全だろう。そういえば見たい映画も何本かあったし、すでに卒業した小学校や中学校での生活をもう一度経験できるのも楽しみだ。あまりいい思い出がなかった生前に戻るのではなく、新たに生まれ変わるというのもいいものだろう。
にこやかに手を振る女神。転生する者の第二の人生を見送る、それ以上でも、それ以外の顔でもなかった。
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