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(違)和室にて
「次の世界は異世界がお望みですか?」
その質問をきっかけに、世界が覚醒する。
ここは、どこだ。
俺は和室にいる。目の前には祖父母の家で見るような丸いちゃぶ台。その手前に敷かれた座布団の上で、普段はしない正座で座っていた。閉じられた障子からはほのかに日の光が透けて、照明がなくても部屋は明るさで満たされている。奥の床の間には何だか高級そうな雰囲気の壺が置いてある。足元の畳はまだ新しく、イ草の青い匂いがわずかに花をくすぐった。
ずっと前からここにいた気がするし、たった今ここに呼び出されたような気もする。とにかく、何が何だかわからなかった。
――そう言えば、さっきは誰が喋っていたんだ?
「それは、わったっし、でーす!」
静かな雰囲気の部屋に似つかわしくない、大きな声。それは目の前から聞こえた。
目を瞑っていたわけではない。視線を外していたわけでもない。しかし動画で全く関係のない画像が差し込まれたように、それ――いや彼女は急に現れた。
「……誰?」
「神です!」
報告はまず結論から、とはよく言ったものだ。とてもわかりやすい。しかし、結論だけというのも考え物だとわかった。
ちゃぶ台を挟んだ対面には和装の女性がいた。着こなしはまさに旅館の若女将か着付け教室の先生と言っても納得するくらい立派なものだったが、金色の髪と細い顔立ちは日本人とは違った外国の血が色濃く出ていた。おそらくヨーロッパあたりだろうか。彼女はにこやかな顔でこちらをまっすぐに見つめてくる……馴れ馴れしいくらいに。
「あ、お茶飲みます? 最近ハーブティーにハマってて。ローズマリーなんですけどね!」
「は、はあ。いただきます」
「ではすぐに用意しますねぇ」
女性はウキウキとした様子で側にあったポットと急須を引き寄せ、缶から出した茶葉でテキパキと準備を始める。
話しかけてもいいのだろうか。
「どうぞ!」
何食わぬ顔で心を読むのはやめていただきたいものだ。
「ここは……どこだ?」
「転生待機室ですね。あなたは見事、転生資格者に選ばれました! ぱちぱちぱち~」
擬音語の賞賛を交えながら、彼女は湯気が昇る渋い柄の湯呑をこちらに差し出した。先ほどの言葉が正しければハーブティーらしいが、この容器にその中身というのはとても違和感を覚える。
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