カップルになった日

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真っ白なスポーツカーは2人乗りでドアがとても重い。ようやく座り込むと思ったよりも低く沈むシートに一気に体を引っ張られた。 車高は低くて、目線で言えば幼い子供くらいだろうか。見るからに高そうな内装は上品な茶色のレザーで統一されていて、所々に赤と白がポイントで配色されていた。派手すぎる。人の兄に文句つけるのも失礼だが、どんな顔をしてこんな車に乗るのだろう。と横を見れば、さらっとした顔で運転席に座る悠がいた。こんな顔か。 「え? なに? 見惚れてた? 」 「あ、うん。ある意味ね」 2人きりになる場所と考えて、車に乗りこんだのだろうが、この車は車高が低すぎて、歩く人たちの目線と合いすぎる。真っ昼間のこの時間にいくら車だからと言ってキスをするには無理があった。まして後部座席もないのに、裸になったら間違いなく通報されるだろう。 そして最大の難点は、この高級車は車体が広くて隣に座っていると言っても、やけに遠い。すっぽりと収まった座席からキスをするなんて、どれどけ身を乗り出さないとならないのだろうか。 この変わり者はこの状況をどう捉えているのか。 助手席に座ったまま、悠の方は向かずに花は様子を伺った。この場所から何か意表をつく行動を取れるとも思わなかった花は油断をしていた。 「んー」 悠は携帯を見ながら少し声を出して、携帯を置くと黙って車を走らせる。 「どこ行くの? ご飯でもいく? 」 もうすっかり昼時だ。 「ああ。うん、ラブホテル」 「うん、ファミレス」と言ったのかな。と思うようにサラッと告げられた。すぐに前を向いて、行き場所を確認するように信号の下に書かれている地名を読み上げていた。 「えっ? はっ? えっ? ラブホテル? ラブホテルって言った? ちょっ……ちょっと待ってよ。そんなとこ行かないよ! ついさっき付き合おうとか話したばっかでしょ」 花は助手席から腰を上げ、手を伸ばし、ハンドルを持つ悠の肩をがっしりと掴む。 「え? だってキスの仕方教えてくれるんでしょ? 」 悠はご機嫌そうな表情でハンドルを切る。 「いやいや。キスの仕方って……そんなこと言ったんだっけ。そんなの教えられないし、ラブホテルなんて行ったらさぁ……」 熱にあてられていた。キスの仕方を偉そうに語っていたかも知れない。この先の言葉の表現がうまく見つからず言葉を止めた。すぐに赤信号で止まると悠はハンドルに片手を乗せて、助手席に体を少し向け花を見た。 「……行ったら? 俺に欲情しちゃう? 」 悠は花の縛った髪の毛を指先で撫でるように触って、目を細めて笑う。 「しないし、というか絶対そんなとこ行かないからっ 」 助手席に乗っている花に物理的に移動先を決められるはずもなく、2人を乗せた車はラブホテルへと向かった。  
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