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「絶対降りない。こんな所……私たちにはまだ早い。まだ私たちはそんな段階じゃないのよ」
花は助手席に座ったまま、悠の顔を見ないように窓に目を向けて喋り続けた。
「いいの? こんな所にいるから、みんなから変な目で見られてるよー 」
平日の昼間のラブホテルというのは意外にも繁盛をしているようで……車に乗ったままの花たちを横目にすでに3組ものカップルが通って行った。
そして事を終えてきたであろうカップルがホテルから出てくる。
「絶対何もしないからねっ」
そう言って花はバッグを持ち、重い助手席のドアを押す。深い座席に座っていると、力がうまく入らずドアを開くのに花は態勢を立て直す。
「重いドアにばかり縁があるのか。それとも高級車はみんなそうなのか。よく人生は高い壁があって、人は壁にぶつかってこそなんて言うけど……私は重い扉にばかり、ぶつかっている気がする……」
花がルーヴルを思い出しながら、重いドアを開こうとすると、助手席へ回ってきた悠がドアを開ける。
「どうぞ」
悠が手のひらを花に向けて差し出す。手を引いて貰うと楽々と座席から立ち上がる事ができて、悠のスマートなやり方に一瞬、自分がジュリアロバー◯かと錯覚する。
「いや……ここはただのラブホテルだ」
すぐに現実に戻り、ホテルの中に入っていくと、エントランスには各部屋の写真と番号が表示されたモニターがあった。液晶が消えているところは在室中で、驚くことに半分以上の部屋が使用中だ。
「すっげー。こんななんだ」
浮かれた様子の悠は体を屈めて、意気揚々と各部屋の写真を食い入る様に見ていた。
残っている部屋は過激な設備の部屋が多くて、花は悠の予測不能の行動に怯えて
「ここにするっ」と慌ててノーマルそうな部屋のボタンを押した。
「えっ! 花! やる気満々だな」
積極的な行動に悠は、嬉しそうに花を見る。
「いや。ちょっとその言葉は今はやめて……誤解なのよ……違うの」
何をどこから説明したらいいかも分からず、花は少し泣きたくなった。
「あっ! 光った! すごいっ! 」
部屋へと誘導する光が点滅を始めて、悠は花の手を取って歩いていく。
「すげぇなー。普通のホテルより演出が派手だな」
部屋に行くまでの廊下をまじまじと見つめて悠は目を輝かせていた。まるで夢の国に来たように悠は飾り一つ一つに声を上げ、指をさし、たった数メートルの道を披露宴かと思うくらい時間をかけて歩いて行った。
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