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光に導かれながら部屋の前に着いた。もらった鍵を差し込んで、悠は花の手を引いて中へと入る。もう花は何も言わなかった。
大きなダブルベットに小ぶりなソファー。透明な壁の大きなお風呂とトイレというシンプルな作りで、それでも部屋はラグジュアリーな雰囲気と淡いオレンジ色のライトに囲まれていて、男と女がエロティックな気持ちを高めるには十分な環境だった。
「ふーん。いやーすごいな」
悠はお風呂やベッド、間接照明などあちこち探検する。ミラーボールの様に色を変える部屋のライトに悠は子供のように浮かれていた。
ひとしきり部屋の中を見て心が落ち着いた悠は、上着を脱いで小さめなクローゼットのハンガーに掛ける。
「花。荷物っ」
そう言って手を差し出して花のバッグを受け取り、クローゼットの中へしまう。
「花。明日は仕事? 」
「明日は……遅番だから午後から……」
花は静かに答えた。付き合った相手と来る初めてのラブホテルは、どんなテンションでいたらいいのか正解が分からない。少し気まずさを持って悠をちらりと見ると、冷蔵庫を覗き込み缶ビールを手に持っていた。
「じゃあ大丈夫だ」
そう言って悠はプシュっと良い音を立てて缶を開ける。渇いた喉を潤すようにビールをグビグビと飲み込んでいく。
「えっ。えっ。ちょっ……ちょっと、飲んだら運転は? 帰れないじゃない! 私、免許ないよっ」
「知ってるよ」
悪戯に笑う悠は手の甲で口を拭いながら、缶ビール片手にベッドに座った。
「……えっ。ていうか待って……悠……未成年でしょ? ダメダメ! 未成年の飲酒は一緒にいる……」
「俺、今日で二十歳だよ」
悠は足を組んでVサインを出しながら、ビールを口に運ぶ。
「きょ……今日? えっ。え……何でそんな大事なことを……何も用意してないし……」
運転手が酒を飲んだ時点で泊まりは確定。未成年の飲酒に焦るも、実は今日が20歳の誕生日でした。というサプライズに花は大きく肩を落としカーペットに座り込んだ。
「あるでしょ? たくさん」
悠がビールを口に付けたまま、笑って花を見る。
「……え? プレゼント? 私何も用意してない……」
「俺に差し出せるもの」
座り込んで悠を見上げる花に、悠は自分の唇をとんとんと人差し指で叩く。
「キスとか……キスとか……キスとか」
カーペットに座り込んだ花を見下ろす。足は組んだまま、手を差し出して妖艶に笑った。
「二十歳のお祝いしてよ。花」
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