11332人が本棚に入れています
本棚に追加
聞き間違いかと思った。
でも、無言の私に再度言った。
「付き合ってほしい」
「…はい」
それは夢でも幻聴でもなく、はっきりと広瀬さんの口から出た言葉だった。
こんなことってあるのだろうか。ずっと片思いだと思っていたのに、違った。
胸の奥深くからこみ上げる温かい何かを握りしめるように私は胸元に手を当てる。
車が走り出す。心音がうるさいくらい体中に響いて、彼の顔を見ることもできない。広瀬さんも何か言ってくれたらいいのに、言ってくれない。
私が今告白を受けたということは、もう彼女ということでいいのだろうか。
広瀬さんは本当に、私のことを好きなのだろうか。
車が止まった。
私の家の前だった。広瀬さんが私に顔を向ける。控えめに彼に視線を合わせる。
「荷物、取ってきて」
「…それって」
「せっかくの休みなんだから泊ってけよ」
「…」
「あ、これ。家の鍵」
「…合鍵ですか」
「うん。貰ってほしい」
そう言って広瀬さんはカギを私に差し出す。
以前はそれを受け取ることはしなかった。受け取ってはいけないと思っていたから。
でも今は違う、ちゃんと付き合ってと言ってくれた。つまり、私がそれを受け取る資格がある。
最初のコメントを投稿しよう!