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「千晴は?」
「私は…広瀬さんで二人目です。大学生の頃付き合った人が初めてで…卒業近くで別れちゃいましたけど」
「ふぅん、今でも連絡とってんの?」
私は取ってませんよと返すと、また、不機嫌そうにへぇといった。
広瀬さんは、婚約をしていたと聞いた。それはどういう恋だったのだろう。婚約ということは家族になる、という普通の付き合いではなかっただろう。
それなのに、どうして別れたのだろう。
「広瀬さんは…嫌なら答えなくていいんですけど…その、どうして…婚約者と別れたんですか」
絶え間なく私の頭を撫でていた手が止まった。
これはおそらく、彼が触れてほしくない部分だと思う。
わかっていたけど、聞いた。副社長の娘と三年ほど付き合って婚約までしたのに…別れてしまった理由は何だろう。
怒っているかなと思って広瀬さんにうつろな目を向けると、彼は意外にも落ち着いた目をしていた。
「俺のことが嫌いになった、ってあっちから言われたから別れた」
「…え、」
「俺、仕事が忙しいと構ってあげられなくなるし、連絡もマメじゃなかった。今思い返すと、俺のせいだったと思う」
ぽつり、思い出すように口からあふれる言葉に胃の奥がずっしりと重くなる。
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