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母ちゃんは帝王
「こういちー、宿題やらなくて大丈夫?」
「夏はまだ始まったばっかなんだから大丈夫大丈夫」
俺の母ちゃんは心配性だ。
まだ夏休みが始まって数日だというのに、ずっと宿題の心配をしている。
物心ついたときにはすでに父はいなかった。
うちは、いわゆる母子家庭だった。
「こういちー、今日のご飯なに食べたい?」
「カレー食べたい」
「よし!カレーね、わかった!」
母ちゃんは俺のわがままをたくさん聞いてくれた。
俺には父親がいないから、その分不自由を感じさせたくない。それが母ちゃんの考えだった。
でも、母ちゃんは少し気を張りすぎているように見えて、俺はそこが心配だった。
母ちゃんはテレビや雑誌なんかの情報をすぐ鵜呑みにする。
それはある夏の日のことだった。
「こういちー、父親がいない子供って危機意識?ってのが薄いんだって」
そんなわけないだろう、俺はそう思った。
しかし、母ちゃんは俺に父親がいないことで苦労をさせたくないのだろう。
「だからお母さんね、今日から帝王になる」
だからなのか、たまにこうした突拍子もないおかしなことを言いだす。
「帝王?なんで?」
「ほら、帝王ってなんか怖いでしょ?危機意識?ってのがつきそうじゃん」
こういうときはもう飽きるまで一日中付き合うしかない。俺は経験で悟った。
「それじゃあ___」
「帝王スイッチ!」
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