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夜、布団に猫が入ってくる。
灯りを落として、生活のざわめきがすっかり落ち着いたころ。布団にくるまって、スマホも置いて、まぶたを閉じて。職場での今日のいろいろな不愉快からも遠い場所に心を横たえたころ、猫がやってくる。
猫は優雅にもぐりこんで、布団のなかで丸くなる。猫は大きくて、するするとなめらかだ。真っ黒な短い毛はつやつやと光って、ちいさな顔の上で、大きな耳がぴんと立っている。目は黄色いけれど、光の加減で緑にも見える。運よく瞳を覗き込めたら、緑と黄色が混ざり合っているのがわかる。尻尾は短くて、長方形の積み木みたいなかたちをしている。
きみだ、と思った。
きみは可愛い。今すぐ目をあけて、きみのすべすべの背中を撫でたい。きみは気まぐれだから、しつこく撫でると来た時と同じ優雅さでするりと逃げていってしまう。きみの気まぐれが可愛い。きみの獣くさい息が可愛い。きみは滅多に鳴かないのに、きみがいるだけですべてがにぎやかになる。家にいても学校にいても、誰といても何をしていても、心のどこかにきみがいて、いつも気にしているきみの素敵な毛がどんな服にもどんなに気をつけてもくっついているように、きみはどこにでもついてくる。
きみはたよりない飼い主を心配してくれたのかもしれないし、ただ、寒いからやってきただけなのかもしれない。どちらでもかまわないし、どちらも同じことなのかもしれない。そういうきみの心が可愛い。きみが来てくれた。あたたかくて、可愛い。
目を開けたい。それができないならせめて、きみがいることを感じていたい。布団のなかで、目をつむって、きみと一緒にぬくもっていたい。きみのあたたかさを感じて、きみにも自分の熱をわけたい。きみの姿を思い浮かべる。暗闇のなかの、黒いきみ。きみの輪郭が記憶のなかでするすると滑って、うまくとらえられない。暗闇に、きみが溶けていく。眠ってしまう。きみがあたたかい。ずっときみといたい。どこにもいかないで。
朝、目が覚める。昨日はいい夢を見た。
昔、実家で飼っていた猫の夢だ。
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