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「れいー」
「どうしたの、拓未」
教師になり、「先生」と呼ばれるようになって5年、私は真也と結婚し、息子の拓未が生まれた。
3歳になる拓未は、私のことを「お母さん」でも「ママ」でもなく「怜」と名前で呼ぶ。
理由を聞いてみると、「だって真也が怜って呼ぶから」と満面の笑みで答えてくれた。
拓未は父親のことも同じ理由で「真也」と呼んでいる。
自分の子供に「ママ」と呼ばれるのが夢だった私だが、呼び方なんてどうでもいいくらいに拓未は可愛くて、拓未が私を見て呼んでくれるだけで十分幸せだった。
「お母さん、何でお母さんのこと、ママって呼んじゃダメだったの?」
拓未を連れて実家に帰った日、私はあの日と同じ質問をした。
「あなたも教師になって、母親になって分かったでしょう?」
母は拓未を優しい眼差しで見つめながら言った。
そう、答えはもう分かっていた。
「だけど、お母さんが辛くなかった?」
「そうねぇ、まぁまって私を見る怜が可愛くて可愛くて……」
母は懐かしそうに目を細める。
「れいー、見て見て! じぃじと新聞で剣作ったの!」
その時、拓未がバタバタと部屋に走り込んできた。右手には新聞紙を丸めて作った棒が握られている。
「そう、良かったねぇ拓未」
「うん! じぃじ、勝負だー!」
再び家を走り回る拓未と、「男の子は元気ねぇ」と笑う母を交互に見ながら私は言った。
「ごめんお母さん、私はその可愛さに抗えそうにないや」
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