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「怜、週末どっか遊び行かね?」
「いいよ、土曜日とかは?」
「……あー悪い、日曜じゃダメかな?」
「別にいいけど……何かあるの?」
「かーちゃんの誕生日だからさ、お祝いに飯食いに行くんだ」
高校時代に付き合っていた彼は、自分の母親を「かーちゃん」と呼ぶ人だった。
小さい頃からそう呼んでいるらしい。
「……ねぇ、紘夢」
「ん、どうした?」
「私、子供が出来たら自分のことはママって呼ばせたいの」
私の「ママ」への憧れは、この頃も変わっていない。
私が呼ぶことを許されないのなら、自分の子供にはそう呼ばせてあげようと考えるようになっていた。
私の呟きに彼は、飲んでいたペットボトルのジュースをむせさせて、ゴホゴホと咳をしている。
「どうした急に!? お、落ち着け!」
「あはは、落ち着くのはそっちだよ」
「でも……いいんじゃない? ……そしたら俺は、パパってことで」
照れながらそう言って私を抱き寄せた彼の胸に耳をつけると、心臓が激しく鼓動しているのがわかった。
……結局、そんな言葉は高校卒業と同時に果たされぬ夢となってしまったけれど。
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