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「先生! これ、ママが……」
「ママじゃないでしょう?」
「あっ、お母さんが……」
目の前にいる小学3年生の女の子は、私の指摘に一瞬言葉を詰まらせ、自分の母親を「お母さん」と言い直す。
「もうすぐ高学年なんだから、先生にお話する時にママなんて言ってたら恥ずかしいですよ」
自分の母親を「お母さん」と呼び続け、「ママ」と呼ぶことに憧れていた私は、大人になって教師となった。
まさかこの立場になって、母と同じ言葉を言うことになるなんて、思ってもみなかったけれど、母が「ママ」と呼ばせてくれなかった理由が、分かってきたような気がする。
「お母さんが渡してって言ってました」
その生徒は体育を見学するという伝言が書かれた連絡帳を私に差し出す。昨日は風邪で欠席していたから念の為ということだろう。
「分かりました。早く元気になって、跳び箱ができるといいですね」
「はい!」
その生徒はにっこりと満面の笑みで頷いた。
生徒は自分の子供のように可愛いし、「ママ」でも「お母さん」でもなく「先生」と呼ばれるのもまた、嬉しいものだ。
だけど……。
業後、携帯を開くと1件のメッセージが表示される。
隣のクラスの担任であり、恋人でもある真也からだった。
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