かぶたろう

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とある田舎で、おじいさんとおばあさんはなかよく暮らしていました。 今夜もふたり一緒にいろりの前でくつろいでいると、なにかを思いだしたようにおばあさんが両手を合わせました。 「ねぇ、おじいさん、覚えてますか」 「なにをかね?」 『新品種の作り方』の動画を眺めていたおじいさん。タブレットから顔をあげて、おばあさんに耳をかたむけます。 「大きすぎて、もったいなくて、置いといた(かぶ)ですよ」 「あ。忘れてたね」 おじいさんは、すっかり放ったらかしにしてた蕪の存在を思いだしました。 あれは、秋もの蕪の時季でした。 よっこいしょどっこいしょ、とあまりにも大きいので、重機で太い根ごと掘り起こしました。 そんな大がかりな収穫物を、納屋(なや)の奥に保管して、そのままうっかり忘れてしまったのでした。 「ですよね。私も忘れてました。どうです、明日はカブパーティでもしませんか」 「あれを、食べるのかね。もう春だがね」 窓辺で日光浴中の黄色い猫がニャンと鳴きました。おじいさんに相づちを打ったかのようです。 「私はとりあえず、使えるか見てきます。近ごろは食品ロスにうるさいですし」 と、おばあさんはゆっくりと立ちあがります。丸まった背中に両手を組んでよたよたと玄関に行くと、離れにある納屋へと向かっていきました。
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