男兄弟の勘違い

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「去年は何したっけ?」 「確か、扇子を買ったんじゃなかったっけ」 「あぁ、そうだ。そうだった」  兄は現在大学一年生、僕は高校二年生で、兄が中学生になったあたりから、兄弟二人で母の日のプレゼントをするようになった。  最初は定番であるカーネーションを贈ったのだが、そのときに母から「花を寄越すなんて、そんな子に育てた覚えはない」と、謎の切り返しを受けた。  母の真意はわからないままだが、要するに花より団子なのだろうと解釈した僕たちは、翌年以降、母の日に花を贈るという選択肢を封じられている。  それからは、昨年の扇子、ハンカチ、日傘など、母の日ギフトのコーナーに置かれている定番らしきものを、毎年適当に見繕って贈っている。  そのときの母の反応は、喜んでこそすれ、絶賛を受けることはなかった。  なんとなくだけど、母も半ば義務的に贈り物を受け取っているだけのようにも見える。 「今年は試しに、ケーキでも買ってみる?」 「いや、前に一度、デパ地下でスイーツを買っただろ」 「あぁ、誕生日かよって言われたっけ」  そこそこ値の張るスイーツを買ったとき、母はそれなりに喜んで食べていたように見えたけれど、こういうのは誕生日のケーキで十分とも言っていた。  花もダメで団子もダメときたら、やはり実用的な物品を贈るしか選択肢はないのだが、毎年これと言って決め手となるアイテムは見つからない。
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