13人が本棚に入れています
本棚に追加
女でひとつで俺を育ててくれた
母が脳梗塞で亡くなった
突然の別れに
まだ事実が追いついていない
涙より感情が何処かに流れていった
葬式も終わり
後片付けをしていた
奇しくも今日は母の日…
プレゼントする予定だった
白のカーネーションは仏壇に添えられる
まだ生活感のある母の部屋
やりかけのラッセンのパズル
ミシンにはエプロンにフリルを
装飾したままになっていた
あ、このワンピース
確か母の日にプレゼントしたやつだ
ふふ。肩周りが思ったよりも太くて
タンクトップ風に母が洋裁したんだっけな
少しの笑と共に涙が込み上げる
なんでこんな時に…悲しい気持ちが来るんだよ
そのままどっかに行ってろよ…
ワンピースに顔を埋めて
目頭を押さえ込む
懐かしい匂いに
なおいっそうに涙が止まらなくなる
ワンピースのポケットには肩生地で作った
ハンカチが入っていた
タンスの1番下に
見覚えのない箱を発見する
開けてみると見覚えのある絵が数枚あった。
あ、これ…俺が描いた母さんの絵だ
記憶にない幼少期の絵も保管されており
絵には俺の写真とコメントが付いていた
「としや君が初めて描いたママ 上手」
「としや君 今度は色を使い分けた!凄い!」
「としや君の絵が誰よりも1番上手!…親バカね」
「としや君が小学生になって描いた母の日の絵 …もう少し痩せて描いて!笑」
それは中学生になるまで俺が描いた母の絵が
大事にしまわれていた。
中学の時に言われた言葉を思い出す
「ねぇ母の日だけど絵は?
描いてくれないの?」
当時は反抗期でもあったし
そんなのはもう描かないと言った
「そう 残念♪」と渋々引き下がった
母の顔はなんだか寂しそうで嬉しそうな
何とも言えない表情だった。
当然それ以降も描いてない
母の日にはカーネーションや
洋服、食事をプレゼントしていた。
もちろん喜んでくれていたと思う。
けど やっぱり …
俺が描いた絵が欲しかったのかな?
その日の夜 母の写真を見ながら
何十年ぶりに母の絵を描いた。
そーいや…こんなにまじまじと母の顔を
見るなんていつぶりだろう
へーこんな所に黒子なんかあったんだ
髪も数センチ切ってるし
シワの数も忠実に書き足す
もう少し若く描いて!
そんな声が聞こえてきそうだ
よし…完成!
お世話にも画力は…良くはない
けど悲しい気持ちはとうに失せていた
母さん!久しぶりだけど描いてみたよ
受け取ってくれ
「今までありがとう
母の子供で私は幸せでした」
とコメントを書き母の遺影に添えた
冷蔵庫にあった缶酎ハイを呑みながら
母の残したやりかけのパズルを完成させる
ほら完成したよ!ラッセンのパズル
エプロンは…ごめん!俺にフリルは無理
その白いカーネーションさ
花言葉は 母への愛って意味なんだ
花屋さんに勧められたんだ
なかなか帰ってやれなくてごめんな
でも母さんの事はひとときも忘れた事はないよ
ほらこれ。母さんの手作りのハンカチ
2枚できたからって俺に渡したやつ
大の大人がこんなフリフリなハンカチ持つのは
恥ずかしいって言ったけどさ。
毎日持ち歩いてたんだぜ?
まだやり残した事沢山あっただろ?
孫の顔見せたかったなぁ
…母さんの愛情もっと受けとりたかったなぁ
夜雨の涼しい風が入ってきた
白いカーネーションが静かに頷く
白のカーネーションにはこんな花言葉もある
「あなたへの愛情は生きている」
まるで母がそう言ってる気がした
最初のコメントを投稿しよう!