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約1か月ぶりの部活を終えたばかりの乾いた唇に重ねられた唇は、とっても柔らかくて、温かくて。
7月中旬の、窓がなく蒸しきった体育館の用具倉庫。
部活が終わり、私と西村さんはふたりでバドミントンのポールを運んでいた。
電球、切れちゃってる。
西村さんがカチカチとスイッチを押すけれど、ほこりが積もった蛍光灯は沈黙したまま。
細長い室内は、体育館の入口からこぼれる夕日だけで薄暗い。
ポールの収納する場所は室内の最も奥にあって視界は悪く、明かりをつけないと十数センチ先しか見えない。
けれど、高校に入学してすぐバトミントン部に入った私はもう場所を覚えていたから、暗闇は特に問題なかった。
抱えていたポールを棚にごとりと置き、蒸し暑さとカビ臭さから逃げようと振り返ったとき、目の前に西村さんの顔があって。
えっ。
目を閉じた西村さんの手がゆっくりと、私の左頬に触れた。
少し湿ってひんやりとする指先。
胸元から汗と混じりわいてくる、女の子の甘い匂い。
驚きを口にするより前に、唇をそっと塞がれる。
初めてのキスは、甘くもなく。酸っぱくもなく。
だけど、とっても柔らかくて、温かい。
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