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『──という事で本日は、いよいよ来週の日曜日と迫ったバレンタインおすすめチョコをご紹介しました! 是非今回のお店や手作りキットをご参考に、意中の彼のハートを射止めてくださいね!』
俺は捺さんが作ってくれた夕食を食べながら、テレビの中の人の話を聞いていた。来週はバレンタインだそうだ。大学の頃は女の子達に貰ったりしたけど、社会人でもそういうイベントみたいな事はするのだろうか。
ふとそんな事が気になり、俺の隣で自分が作ったローストビーフを食べている捺さんに質問してみる事にした。
「捺さん。捺さんの会社はバレンタインって、何かしますか?」
「何か?」
「はい。皆さんで交換しあうとか、誰かが買って分け与えるとか」
「なんだそれ、エサか」
口に入れた物が詰まってぐっとなっている捺さんの背中をトントンと叩いてあげた。
「大学の寮ではそうだったんです。毎年、全員にチョコを配る謎の女神役がいました」
「うわ、男子校みてぇ」
「はは、寮はそんな感じでしたよ」
捺さんは喉の詰まりをビールで流し込んでから正面のテレビを見ながら言った。
「うちの営業部に限ってはチョコ禁止だから、そういうやりとりはないぞ」
「え、禁止?」
「三年前くらいからな。営業は日中出払ってるやつが多いから、帰ってきたタイミングでチョコ渡そうとする女性が多くてその日は全然仕事になんなくて、それで部長が禁止にした」
「へ、へぇー。モテる人がいっぱいいるんですね」
イケメン率が高いのかな、捺さんの部署は。
「いや、それがほんの一部だからさ、モテないやつらが僻んで部長に苦情言ったんだよ」
「な、なるほど。それで」
「だから特に何もないよ」
「そうですか。ち、ちなみに……」
捺さんはチョコ貰っていたんですか? って聞いたら、とても曖昧な感じで、まぁ少しくらいは、と言った。
「正直貰っても困るんだよな。普段食わないし、食べたいとも思わないからチョコなんて」
「まぁ捺さんはそうですよね。じゃぁ最近はずっとチョコ無しだったんですか?」
そう俺が聞くと捺さんの箸が止まった。
「…………いや、」
うわぁー、この捺さんの顔。絶対いっぱい貰ってるやつだ。やっぱりモテるんだよな。
俺がじっと見つめて次の言葉を待っていると、渋々といった感じで捺さんの口が動いた。
「他の部署の人からはな。いくつか貰うんだよ。普段仕事で関わりある人とかさ。でも今年は全部断るよ」
そう言うと俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「それ本当ですか? 同じ会社の人の好意を断ったりできるんですかぁ?」
捺さんは優しいから、そういうの断るの苦手なくせに。
「大丈夫大丈夫。心配すんなって」
「……別に、貰っても俺は怒りませんよ」
「いや、俺が欲しくないだけだよ」
「そう、ですか」
本当は女性からチョコなんて貰ってほしくない(いや、男性からだってイヤだけど)。でも何も貰えないっていうのもなんか可哀想な気もする。せっかく(?)のバレンタインデーなのに。
世の中のカップルはそういうのどうしているんだろう。付き合ってる人にも渡すものなんだっけ。彼氏なんていた事ないから分かんないや。でも、もしそうなのだとしたら俺も何かしなきゃいけないのでは? そもそも他の人からなんて考えてる場合じゃない……?
あれ、これってもしかして、もしかすると。
俺が、俺が捺さんにあげるべきでは!?
その発想はなかった!
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