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な、誰だって? しゅん? 俊、だと!?
「それでもう一度二人で話し合って、そしたら征一さんにも説明しますから。もう少しだけ待っててください」
と翔太が言うもんだから、
「……あ、あぁ、わ、かった」
そう答えるしかなかった。
まっっったく想像もしていなかった方角からいきなり弓矢が飛んできた気分だ。俺は刺された事にも気づけないまま硬直してしまった。
実際、何一つ納得などしていない。
むしろ疑問と不満が増しただけだ。
だが、すでに分かったと言ってしまった手前、色々あれこれ問いただす訳にもいなかくなってしまった。本当は今すぐにでも話してほしいくらいだ。
まさかあの佐伯俊が関係しているだなんて、思ってもいなかった。
あいつと何かあったなんて、最高に最悪のパターンじゃないか。なんなんだよこの展開は。それを今日まで隠していて? それでさらに俺に話すか話さないかを、あいつに聞いてみないと決められないだと? なんだそれ、全然意味が分からない。
というか、勝手に話せない事ってなんだ。なぜあいつの許可が必要なんだ。あんな奴ほっとけばいいだろう。どうせ死にはしない。
それなのにわざわざ二人で話し合うって……まるで、俺よりも佐伯俊の方が大切みたいじゃないか──。
不満とイライラをなんとか鎮めながら、それから丸一日過ごした。
考えれば考えるほど良くない妄想が広がって、俺の頭の中ではすでに、佐伯俊を百発は殴っていた。
あの翔太に限って、浮気は絶対ないはずだ。
じゃなければ俺がプレゼントした指輪を、今も大切そうに付けてくれてはいないだろう。だから大丈夫なはず、なんだ。
それにあっちも彼氏がいる訳だし、今さら翔太とどうこうなりたいなんて事はないはずなんだ。
──だが、大人には酔った勢いってものがある。
なに、過去には俺にだって身に覚えがあったりなかったりする訳で。だからまぁ、一瞬の気の迷いでって事ならまぁ、許してやらなくもないような。いや、やっぱりないな。もしそうなら、まず佐伯俊をボッコボコに殴ってやらないと気が済まない。それからもう二度と翔太に触れないという誓約書にサインでもさせ──……
と、ひたすらイラついていたら翔太が帰ってきた。
今日の俺は、話の内容を何パターンも考え尽くして疲れ果て、仕事を早めに切り上げすでに帰宅している。
時計に目を向けると、いつの間にか夜八時になるところだった。俺は帰ってきてからずっとソファに座ったまま、一時間もこうしていたようだ。
リビングの扉が開き、翔太が俺に近づいてくる。
「遅くなってすいません、征一さん」
「あぁ。おかえり」
「えっと、昨日はすいませんでした。それであの俺、聞いてほしい事があるんです。いま時間もらえますか?」
俺は黙って立ち上がり、ダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。
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