【Collection 4】ケンカ

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「か、関係なくないですよ。だって、俺のせいで智くんが傷つくのは嫌だし、二人に迷惑かけたくないですから」 「だからって俺に黙っておく必要あったのか?」 「それは、だって。俺だけが征一さんに話して、智くんには内緒にするなんて、そんなのおかしいじゃないですか」 「いいだろ別に。俺はその二人とはなんの関係もないんだから」 「関係ないって……それは、そうですけど」 俺の口から出た言葉で、目の前にいる翔太が傷付いていく。それが見ていてよく分かっているのに。それなのに、まだ止めてやれそうにない。 「それともなんだ、そんなに俺にバレたらまずい事だったのか? 初恋の相手とキスした事が」 「……なに、言ってるんですか?」 「大学時代の友人達と一緒だったんだもんな。当時の事でも思い出したか。ずっと好きだったんだもんなぁ。キスする妄想した事くらいあったんじゃないか? あぁ、だからか。それで俺に罪悪感でも感じて──」 「征一さん!」 めずらしく大きな声を出した翔太の顔を、俺はもう見れる状態にはなかった。 ただただ口が、勝手に暴走してくれている。 「征一さん、そんな風に思ってたんですか?」 ────いや、違う。そんな訳ない。 「俺が、まだ俊のこと、ちょっとでも好きなのかもしれないって」 ────いいや、思っていない。 「征一さん、信頼できないのかって、さっき言ってましたけど、本当は俺のことを信用してくれてなかったって事なんですか?」 ────だから違うって、そう言いたいのに。気のきいた言葉が何も出てこない。 「黙っていた事は、すいません。でもおれ……俺は征一さんを信頼しています。でも、今回のことは俊と智くんにも関係ある事だったので、俺だけじゃ決められなかったんです。だから、隠したくて隠したんじゃないんです」 そう訴える翔太の声は届くのに、まだ受け入れられそうにない。どうしても、俺の中に蓄積した不満が外に出たがってしまうんだ。 「じゃぁ、二人で話し合って隠すことにした理由を教えてくれよ」 「……え?」 「そもそも、佐伯俊以外のヤツとだったらすぐ話してくれたんじゃないのか? 俺に言わないって決めたのは、あいつとだったからじゃないか」 「そんな……」 「違うって言えるか? キスじゃないって言うなら俺に話したって問題なかったはずだろう? それをなんでいちいち隠したんだ。そんな事をしたら拗れるだけだって、なんで分からないんだよお前は!」 ポタ、ポタ、と。 まるで屋根から雨漏りしているみたいに、 テーブルに涙の雫が落ちる。 なんて大人げない台詞を言っているんだろう俺は。 こんな心ない冷たい言葉が自分の口から吐かれているなんて信じられない。 それも、せっかく話してくれた翔太に向かって。
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