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俺は撫でていた手を止め、翔太の後ろに腕をまわして両手でそっと抱きしめた。
「さっきの、悪かった。ひどい言い方して」
翔太の小さな頭に唇を埋めながら謝る。
「お前がさ、あいつの名前ばっかり言うから。その、なんだ、あー、嫉妬、した」
この台詞を、本人の目を見ながら言うのはかなり恥ずかしかっただろう。翔太が俺の胸の中にいてくれて良かった。
「お前はなんにも悪くないよ。だからもう泣くな。またブサイクになるぞ」
そう伝えながら、翔太の頭に顎をあてグリグリと擦り付けてやった。
「征一さ、ん」
すると、真下から小声で呼ぶ声がして俺が、ん? と返事をすると、
「ありがとうございます」
訳の分からない感謝が返ってきた。
「なに言ってんだ? 俺はなにも──」
いや、何もしていないじゃないな。嫉妬で八つ当たりしたんだ。今度は翔太が怒る番でもおかしくないのに。それなのに、なんで"ありがとう"なんだ。そう思っていると、
「俺、思ったんですけど、本当はずっと、征一さんに怒ってほしかったのかもしれません」と翔太。
「な、俺に?」
「はい。俺はいつも下手くそで、恋愛もほとんどしたことないから、いつも間違ってしまう。だからそうじゃないって、ちゃんと叱ってほしかった。最初から秘密にするなんて、無理だったんですよね。それなのに俺、おれ」
「いや、お前は間違ってないよ。大丈夫。でもまぁ嘘が下手くそだから、次からはいちいち隠すな」
「……はい、すいませんでした」
「話してくれて、ありがとな」
翔太は顔を上げないまま、こくりと頷いた。
抱きしめている身体から、少しづつ力が抜けていくのが伝わる。
湿ったシャツが徐々に熱を帯びてきて、翔太の優しい温もりに変化していく。俺のよく知っている、温かさに。
結局いつも、俺の方が翔太に甘えている。
怒ったりせずちゃんと自分の素直な気持ちをぶつけてきてくれるから、だから俺もそんな翔太が愛おしくなってしまうんだ。
きっと他のヤツじゃこうはいかない。俺のくだらない嫉妬に嫌悪感を抱くのが普通だろうし、なんで分かってくれないのだと不満もぶつけたくなるだろう。でも翔太にそれはない。いつも真っ直ぐで、根底にある好きの気持ちを忘れないでいてくれる。こいつのそういうところ、本当に凄いと思う。
情けない話、実際はこいつの方が大人なのだろう。
俺はすぐ自分の感情のまま動いてしまうところが昔からあるから。そのせいで何度も失敗してきたくせに、未だにうまく出来ていないんだ。
だから、なぁ翔太。
ありがとうは俺のほうだよ。
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