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もう何度目かも分からない。
これまで数えきれないほど重ねてきたというのに、
まだ足りなくて、まだ知らない。
喉の奥深くが渇くみたいに
欲しくて欲しくて、たまらないんだ。
傷を刺激しないように、唇表面を優しく舌で擦る。それに反応してうっすらと開いた入り口に沿わせて、少しづつ侵入していく。
それから翔太の舌の上をトントンと刺激してやると、俺のに絡むよう静かに巻き付いてきた。
身体の力が抜けてもいいように、背中に腕を回し支えてやりながら、いつもより随分ゆっくりとしたキスを。
あいつの事なんか、少しも頭に過らず済むように。俺のことだけでいっぱいになるまで──。
まるで、この世界に二人だけみたいに。
「──ん、せ、ち……さん」
「なに?」
翔太に胸をぐっと押され、無理やり引き離された少ない隙間で言葉を交わす。
「あの、するなら、その、先にシャワーを」
「いや、今日はしないよ」
「──え?」
俺の言葉があまりにも予想外だったのか、翔太がポカンとしている。
「今日はしない。お互い明日も仕事だしな。キスだけだ」
「あ、そう、そうですよね」
勘違いしてましたって顔がカーっと、どんどん赤く染まる。
こいつはホント、いつまで経っても、どれだけ一緒にいても初々しい。そんなところがかわいくて、今すぐにでも抱きたくてたまらないんだが。
今日は、今回だけは我慢だ。そう、我慢するんだ俺。カッコ悪くて、これ以上翔太に"ごめん"は言いたくないから。謝罪のかわりに、そして自分を戒めるためにも。今はキスだけだ。
「なぁ、もう少ししていいか?」
とは言え、まだまだ全然足りないので。
「えっと……」
「ダメか?」
あぁ。結局女々しいこと言っている。
「ダメっていうか、その」
「その?」
「か、」
「か?」
「身体が、反応……しちゃうんです、けど、これ以上は」
「はは、早いな」
「し、仕方ないじゃないですか! だって征一さんのキス……」
「俺の? なに?」
ちょっと楽しくなってきた。
「な、なんでもないです」
「なんだよ、言えよ」
「イヤです」
「言えって」
「…………」
「言わないならする」
「あ、ちょっ、」
翔太が言い終わるより早く、深く唇を合わせた。さっきまでのキスのせいで、お互いに潤った咥内でまた一つに重なる。もう戸惑いはない。
音が、熱が、感触が、繋がっている部分を際立たせるように主張している。その一つ一つが、俺の細部まで刺激して、全身が翔太に犯されているような気分になってくる。
「……も、だめ、って」
「もう少し」
「ん、せい、いちさ」
「キスだけだから」
「だ、から、それが……それが! ダメなんです!」
今度は勢いよくベリリっと身体を剥がされた。翔太は怒っているのか、ちょっと潤んだ瞳で俺を睨んでくる。
「征一さんの、さっきからキスだけってなんなんですか!」
「だから今日はしないって」
「だったらそんなエ、エロいキスもしないでください!」
「えー」
「えーじゃないですよ! もぅ!」
「大丈夫、勃ったら抜いてやるって」
「ほら! それじゃもうキスだけじゃないですよね!?」
「……ん? そう言われるとそうだな」
「ほらー」
「ごめん」
あ、結局謝ってるわ、俺。
「ぷっ、あはは、もー征一さんはー」
「じゃぁ本当に最後、もう一回だけ」
「本当に最後、ですよ?」
「はい」
「じゃぁ、もう一回」
ごめんの代わりに、愛してるのキスを──。
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ケンカ end
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