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荒ぶる二人をなんとかリビングのソファまで運んで、俺は辰典さんの質問に答える事にした。
「変な誤解をさせてしまったみたいで、すいません。征一さんも俺も、必要な物はそれぞれ自分達の部屋に置いているので、特別ここに置く物がないんですよ。それに俺は料理出来ないから、キッチンは征一さんが使いやすいようになってるんです」
「……ふーん」
まだ納得できていないような、少し曖昧な感じの返事が辰典さんから返ってくる。
「で、でもさー。なーんか、ほら。ここまで殺風景だと落ち着かないじゃん?」と、辰典さん。
「そんなに物が少ないですか? 引っ越ししたばかりだからですかね。それに俺、特にこれと言って趣味とかないですし。もともと物は少ない方だったんです」
暇な時はスマホゲームをするくらいだし、前のアパートの時だって、必要最低限の荷物しか置いてなかったからなぁ。だから今のこの部屋にも、何も違和感なんてなかった。
「まぁ……翔太くんが? そう言うなら? 別にいいんだけどね。ほら、ここがあまりにもキレイだからさ、ちょっとビビったって言うかぁ」
辰典さんは唇を尖らせながらそう言った。
「お前の部屋が汚すぎるだけだろ。いい加減掃除しろよ。ゴミ屋敷め」と、征一さん。
「はぁ!? 俺だってゴミはちゃんと捨ててますぅー! ただ、大切な物が多いだけなんですぅー」
「何がどこにあるかも分からんくせに、大切な訳ねぇだろ」
「あっ! ひっでぇ! はいこれだよ、この冷たい言い方! 翔太くん聞いてた? これが捺の真の姿だぜ!?」
真の姿って。
でも、そうなのかもしれない。
征一さんがこういう物言いをする時は、かなり気を許している人の前でだけみたいだから。
と、今これを言ったら今度は俺が征一さんに怒れちゃうだろうな。
「ま、まぁとりあえず、なにか飲みませんか? 喉渇きましたよね。俺、ビール持ってきます。辰典さんは何──」
「あー翔太くん、ちょい待ち!」
俺が再びキッチンへ向かおうとしたところを辰典さんに止められた。
「飲みもんはもうちょい待ってよ。そろそろ届くと思うからさ」
その言葉に、征一さんと俺はお互いの顔を見合せた。その時、またインターフォンの音が──
「ほらな! タイミングバッチリ~」と笑う辰典さん。
征一さんは何も聞いてないぞって顔をしている。
「へへ、実はさ。酒屋にビールサーバー頼んでおいたんだよね。捺の引っ越し祝いはやっぱりコレっしょ!」
「え!? ビールサーバーですか?」
サーバーってたしか、お店とかで使っている生ビールが飲める樽のやつだよね。それが家でも注ぎたてのあの味で飲めるって事? それって、
「凄いですね、征一さん! 美味しい生ビールが飲めますね」
何故か俺まで嬉しくなってしまう。
だって、ビール大好きな征一さんにはこれ以上ない引っ越し祝いだと思うから。なのに、
「……あれ、征一さん? 聞いてます?」
何も反応がない。
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