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「そ、そっか。捺が柔らかい言い方ねぇ。うーん、いまいち想像できないけど、翔太くんが言うんだから、そうなんだろうなぁ」
難しい顔をしながら腕を組む辰典さん。
そんなに想像できない事だったのかな。
「まぁまぁ、二人が仲良くやれてんなら良かった!」
表情がパッと明るくなった辰典さんが、咳払いを一つして続けた。
「それで、その、さ。翔太くん、捺のこと宜しくな。これから先ケンカとかする事もあるかもしれないけどさ、とにかく捺は翔太くんのこと大好きだから! それだけは忘れないでやってよ」
「ふふ、はい」
「本当あいつさー、翔太くんがかわいくてかわいくて、仕方ないんだぜ? 知ってる?」
「ぷっ、えぇっと。知ってるような知らないような」
「この前捺と飲み行った時だってさ、俺がトイレ行って戻ってきた時、あいつ一人で何してたと思う?」
「え、なんだろ?」
「スマホの翔太くんの写真じっと見つめてたんだぜー? しかも真顔で! これ信じられる?」
それは、びっくり。かも。
「多分あいつ、画像フォルダに"翔太くんスペシャル"とか作ってんだよきっと。そんでちょっと時間が出来たりしたらちょこちょこ見てんだと思うんだよなー。あれで実はムッツリだからさー。翔太くん、盗撮とかされてない? 気をつけた方が───いでででで!」
「なーに勝手なこと言ってんだ!」
「げ! 聞かれてた!」
いつの間にかキッチンから戻ってきていた征一さんは、辰典さんの耳を思いっきり引っ張っている。
「もう帰れよお前! 終電なくなるぞ!」
「えー? まだあるって大丈夫大丈夫。それより、何作ったん?」
結構痛そうに見えたのに辰典さんには全然効いてないみたいだ。それより捺さんのお皿の中身を、瞳を輝かせながら覗いている。
「トマトのブルスケッタと生ハム。お前ワイン飲んでんだろ? これすげー合うから」
「うわ、捺さん最高かよ。いやーこの家いいなぁ、俺も住もうかな」
「アホ言うな」
「いて」
そしてまた征一さんの優しい拳骨の音が、リビングに響く───。
「辰典さん、寝ちゃいましたね」
「ん? あぁ」
俺はキッチンで洗い物をしてくれている征一さんに声をかけた。
「いつも以上にたくさん話して、辰典さん楽しそうでしたもんね」
「さすがに昼からあんだけ喋れば電池切れにもなんだろ」
「ふっ、そうですね。俺、部屋から毛布持ってきますね」
「あぁ、悪いな」
自分の部屋に毛布を取りに行こうとリビングの扉を開けた時、
「あ、やっぱ俺の部屋のやつ持ってきてくれるか?」
「え? あー、はい。分かりました」
一瞬、なんでですかって聞こうかと思ったけれど。考えてみたら、征一さんの部屋の毛布の方が全然いいやつだもんな、と理解した。
そして言われた通り征一さんの部屋から持ってきて、それを辰典さんにそっと掛けてあげた。
「これ、最悪朝まで起きないぞ」と征一さん。
「どうしましょうか。暖房は付けてますけど、寒くないかな」
「大丈夫だろ、こいつたまに酔っぱらって駅で寝てるくらいだから」
「え」
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