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パタンと、静かに閉まる扉。
まだ目が慣れていなくて、部屋は真っ黒だ。
電気付けないんですか? って、聞こうと思い征一さんの方へ振り返った瞬間───
「はぁぁぁー、やーっと触れる」
大きく息をはく温かい腕に抱きしめられた。
征一さん、かわいいなぁ。やっと触れる、だって。まるで一日我慢していたみたいに聞こえてしまう。
俺も、ずっと征一さんに触れたかった。
だから、今あるこのぬくもりが、愛おしい。
「……ん、征一さん、あったかい」
気持ち良くて、安心する。
この大きく包まれる感じ、大好きだ。
そういえば今朝は、ハグしてもらうの忘れちゃったな。そのせいか、征一さんの温もりがすごく久しぶりに感じる。
「翔太、今日はありがとな」
「えっ、なんでですか?」
俺は胸に埋めていた顔を上げた。
「あーいや、一日中あいつの相手させちまったと思ってさ。お前今週ずっと残業で疲れてただろうに。付き合わせて悪かったな」
「いえいえ。俺も楽しみにしてましたし、辰典さんから征一さんの事いろいろ聞けたりとかして、すっごくいい日になりました」
「なら良かった──って、ん? なに話した?」
「ふふ、ナイショですよ」
征一さんの画像フォルダの話は……気にはなるけど、なんとなく聞かないでおこう。
「あ、征一さん。そういえば毛布ないですよ」
「あぁ、そうだったな」
「俺、部屋から持ってきます。まだ薄布団だけだと寒いですよね」
「別にいいだろ。お前いつも暑がってはだけてるぞ」
「うっ、でも征一さんが」
「平気だって。くっついて寝たらちょうどいい」
「そう、ですか」
って、あれ。
これはすでに一緒に寝る事で確定なのか?
今更やっぱり一人で寝ます、とも言いづらいけど。
それに本当は、俺だって征一さんと毎晩くっついて眠りたい。春とはいえ夜はまだ肌寒いし、温かい征一さんの体温を感じながら眠りたい。一人きりじゃきっと寒いはず───
あ。
「そうだ。毛布使わないなら辰典さんに俺のも掛けてきます。二枚あった方が温かく眠れますよね」
「ちょーっと待て!」
部屋から出て行こうとした俺の身体は、征一さんに両腕がっちり掴まれて動かない。
「だーめだっつのに」
「えぇ? なんでですか?」
そんなに全力で止めなくても……。
さっきは自分の毛布にしろって言うから俺はちゃんと征一さんの部屋から持っていったのに。今度はなんだ?
「なんでって。分かんねーの?」
「分かんないですよ。征一さんの毛布の方が高くていいやつだからじゃないんですか?」
「なんだそれ、そんな訳あるか。あいつは段ボールでもいいくらいだ」
えぇ。
じゃぁ本当の理由って───
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