【Collection 5】吐息は静かに

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暗い部屋にも慣れてきて、少しずつ征一さんの顔が見えるようになってきた。 それでもやっぱり暗くて、表情からは何を言おうとしているのかまで、読み取れそうにない。 その時、大きなため息が聞こえてきた。 「翔太、お前やっぱちょっと鈍いよな」と、困った声。 「鈍い、ですか? えっと、普通はすぐ分かる問題って事ですか?」 そもそも征一さんが何を言っているのかさえ、よく分かっていないんだけど。 「いや、悪い。俺の心が狭いだけだな」 そう言う征一さんは、またため息だ。 いったい、なんなんだ? 「あのー、征一さん?」 下を向いている征一さんの顔を覗き込むと、両手をぎゅっと握られた。 「だーかーら、あいつに翔太の匂いがつくのがイヤなんだよ。毛布なんか掛けたら絶対つくだろ!」 「……そう、なんですか?」 「そうだよ!」 予想していなかった答えに驚きすぎて、次の言葉が出てこない。 俺の匂いがつくのがイヤだなんて。 征一さんでも、そんなこと考えるんだ。 「ふ、ふふっ」 なんか、じわじわ来た。 「笑うな。女々しいのは自分で分かってる」 「あはは、すいませ、だって征一さんがそんな」 かわいい独占欲、持ってたなんて。 「ダメったらダメだぞ、あいつにお前の毛布掛けるのは。それに暖房ついてるから平気だ、ほっとけ」 「ふふ、はい」 「そんなどうでもいい事より、なぁ」 「え?」 突然征一さんの顔が目の前に来たと思ったら小声で、「気を取り直して、キスでもしませんか?」だって。 あーもー、むり。 征一さん、かわいいがすぎる。 俺はもちろん「したいです」と、答えた。 朝ぶりの征一さんの唇が、俺に触れる。 ゆっくり確かめるように擦れて、それからしっかり重なり一つになった。 お互いの唇が混ざり合うように動く。 瞳をとじてそれを味わっていると、征一さんの舌が合図のように伸びてきて、俺は口を開いて応えた。 「っん、」 舌が絡むたび、全身ゾクゾクする。 お酒をたくさん飲んだからかな。いつもより熱っぽいような気がして、それがまた気持ちいい。 それに、今日は征一さんの貴重な話もいっぱい聞けたし、嬉しい独占欲も知れた。 だから、なんだかもう、愛しさが身体の奥深くからうわーって沸き上がってきて、止められない。 「征一さ……もっと、」 もっと繋がりたい。どこまでも。 「んっ、あ、」 お互いの舌が、伸びた分だけ絡まっていく。 征一さんの両手が俺の顔を支えるように包み込んでくれるから、俺もしっかりと抱きつく。 どれくらい───。 どこまで深くキスをしたら満足するんだろう。 すればするほど欲しくなる。 もっと、もっとって。 どんどん渇く。 「なぁ、翔太」 と、急に唇が離れていってしまった。 「お前、声気にしてたんじゃなかったのか?」 「……え、な、声?」 「辰典、いるんだぞ」 あ。
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