【Collection 5】吐息は静かに

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征一さんの動きが止まったおかげで、俺は浅くなっていた呼吸を深く数度繰り返した。 「翔太お前、ほんとにここで終わりにするのか?」 暗いからよく見えないけど、そう言う征一さんの額にはシワが寄っている気がする。それでも俺は続けた。「終わりです」と。 「なぁ、声なら気にしなくていいって。俺の部屋からリビングは遠いし、布団被ったりすれば平気だから。そもそも辰典のことなんかまったく気にする必要ないからな」 「……ふ、ふふ」 「おい? なに笑ってる?」 征一さんの真面目な声を聞いていたら、つい可笑しくなってしまった。 さっきいじわるされたから、俺も少しいじ悪い事を言ってみたかったんだ。 「すいません。さっきのストップは、準備は終わりって意味です」 と訂正した俺は、征一さんの耳元に顔を近づけ、小声で続けた。 「征一さんも一緒に気持ち良くなってください。本当のストップは、まだ先ですから」と。 ─────それから。 二人で薄布団の中に隠れてセックスをした。 いつもより少し、緊張しながら。 楽しかった今日の出来事すべてを形取るように。 お互いの吐息が伝わる、その距離で──── 「──ん、───さん、辰典さん、起きられそうですか?」 「んぇ……あれ、翔太くん? なに、え? ここどこ」 「あ、起きました? おはようございます」 ソファで爆睡中の辰典さん。征一さんがいい加減起こせというので声をかけた。 今はもう朝九時を過ぎている。俺達が起きてきても目が覚めないくらい、ぐっすりと眠れたみたいだ。 「あー……俺泊まっちゃったんだ? ごめん翔太くーん」 「いえいえ、大丈夫ですよ。それより寒くなかったですか?」 「全然へいき~布団ありがと。ってか、それより頭いったいわ」 そう言うと、辰典さんは頭をかかえて踞ってしまった。昨日たくさん呑んでたもんなぁ。 「ん、翔太これやって」 「あ、はい」 俺は征一さんから手渡されたそれを、辰典さんの前にそっと差し出した。 「え、何コレ?」 「リンゴのすりおろしレモネードです。蜂蜜も入ってて、美味しいんですよ」 「いやいや、え、えぇ~。まさか捺さんの手作りですか?」 「ふふ、そうです。俺が二日酔いの時とか、たまに作ってくれるんです」 「まじかぁ~。捺ってほーんと、翔太くんには優しくしてんだなぁ~」 しみじみと語る辰典さんと、キッチンに戻りながら「うるせーぞ辰典」と言う征一さん。 二人のいつものやり取りを聞いて、少しほっこりしてしまう俺。 「これ、翔太の分な」 「ありがとうございます。いただきます」 征一さんが俺にもレモネードを持ってきてくれた。 甘くて、少しすっぱい。俺が好きな味だ。 「はぁーうめー生き返るわ。そういやさ、昨日俺が寝ちゃってから二人はどうしたん? まだ飲んでた?」 その質問についギクリ、としてしまう。 征一さんは間髪入れず「さすがに寝たよ」と、返した。 俺はただ黙って、マグカップに視線を落とすだけ。 「そっかそっか、ごめんなー寝ちゃって。次はもっと起きてられるよーに頑張るわ~」 「いやもう来んな」 「またまた~捺はぁ~素直じゃないね」 「マジで来んなよ。なぁ、翔太」 え、突然俺に振るの? 「ごほっ、えっと。いつでも来てくださいね。辰典さん」 「ありがとー翔太くん! 次は朝まで飲もうな!」 「……あ、あはは」 昨夜に"続き"があったことは、 征一さんと俺だけの、ヒミツだ。 ─────────── 吐息は静かに end ───────────
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