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命の危機
「…め。こさ…!小雨!」
『あー、うん。どうしたの?』
「どうしたも何も。
話しかけてるのに返事しないから。
今回の楽曲の作詞は小雨が担当するんだって。」
『わかった。』
最近、聴こえなくなってきた。
補聴器をつけている右耳も危うくなってきているし左耳はノイズしか聞き取れない。
左耳は補聴器なしでもいけていたのに。
僕にとって命のようなものだったのだ。
歌を歌うときもその音だけを頼りにしてきたからである。
ため息もつきたくなるよ。
僕は会議が終わるとすぐに逃げるように部屋にはいった。
不自然だと思われても仕方がない。
こんなこと考えてても落ち込むだけだ。
僕はパソコンの前に座る。
楽曲の世界の言葉をつくるためだ。
悲しい感じでと走り書きが企画書に書いてあった。
やるか。
それから何時間たったのかもわからなかったが、
水を求めてリビングに出ると朝日が出ていた。
寝ずに次の朝が来てしまった。
僕はスマホの微かな音を聞き取る。
神楽さんからのメールがたまっていた。
内容はやっぱり、心配ですメール。
ありがたいような、ありがたくないような。
僕は立ち上がるはずだった。
足に力がはいらずに床に倒れた。
カーペットのありがたさに感謝した。
そしてもう一度立ち上がろうとするが、
やっぱり、無理だった。
声を出せたとしても仕事中だろうし。
かろうじて歌詞が出来上がっていたのが幸いだろうか。
これで倒れても大丈夫だろう。
仕事の狂いはない。
でも、事務所に顔を出せと言われていたような。
僕はめったに出さない意地で
歌詞のデータをコピーしてから部屋を出た。
廊下が長いと感じてしまったのは自分でもヤバイと思った。
今、彼らに会っても隠せるきがしない。
廊下の壁に手をつきながら歩くのが精一杯。
自分でもわかっている。
今,何かを食べたら吐きそうだし、多分息も荒い。
多分、風邪と栄養失調が偶然に重なっている。
もう、事務所まであと一階というところで
僕は本当に命の危機を感じた。
たしか、今日のオフは。
ぼんやりとしながら記憶を探る。
海さんと隼人さんがいると思った。
この階はどこだ。
壁に寄りかかった。
そして海さんに電話をした。
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