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「あん時は、お前らが来るまでがすげえ長く感じたわ…」
新居浜は両手で頭を抱え、声を震わせる。
以下は、新居浜の語った話だ。
──腕を強く掴まれたまま、俺は雑草の海を引き摺られるように歩いた。懐中電灯は狭い範囲しか照らせなくて、足元なんかほとんど見えない。建物の右端から裏へ曲がると、その先は更に闇と雑草が濃く、深くなった。真っ暗なヤブをかき分ける音が、自分達のものだけではないようにも聞こえる。虫か、蛇か、それとも鼠か? いや、もっと他のものだったら…? 言いようのない恐怖に身を強ばらせると、松山も立ちどまり、動かない俺に焦れたように振り返った。
「…ンだよ、怖いのかよ」
凄味の利いた小声に、更に竦んだ。
そうだ、自分はいつもこれが怖くて、従わずにはいられなかった。万引を強要された時も、他人の家の窓に石を投げた時もだ。二度目以降は前回の過ちも強要のネタになった。そんなこと、自分は絶対にしたくなかったのに逆らえなかった。この先ももう二度としたくない。こいつが、こいつさえいなければ…。
「…松山は、怖くねえのか?」
松山は答えず、急に腕を離した。そして、いきなりその手を俺の顔めがけて振り出してきた。
「…っ!」
思わず身をかがめる。でも、予想したような衝撃は来なかった。顔を上げると、松山が自分の後ろにあったらしいなにかを掴んで引っ張り出すところだった。
「なに…?」
それは、折れた木の枝らしかった。行動の意図が掴めずオロオロと見ていると、松山は建物に向き直って腕を大きく振りかぶった。
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