TRUE END

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「奥に、なにかいたような気がしたんだ…」  今治はそのとき見たものを思い出したのか、血の気の引いた顔で呟くように言った。  以下は、今治の語った話だ。  ──何かが割れるような音がして、新居浜達のいる方向に急いだ。先頭に宇和島、次が西条で、俺が最後になった。後ろから何かが追ってきたらどうしよう。そんなありもしない妄想に身を震わせて、必死に二人を追うが、草が邪魔で上手く進めず焦る。あいつらなんであんなに速く動けるんだよ!  にしても、ここ、こんなに距離あったか? 結構走ってるのに、向こうの端に辿り着けない。不安に駆られて、前を行く二人の名を呼ぼうとした、その時だった。 「え…っ」  突然、俺は後ろにつんのめった。なにかにジャケットの襟を掴まれ、引っ張られたのだ。 「どこまで行くのよ、こっち!」  首を回すと、西条が引きつった顔で俺を見ていた。 「なんで先に行っちゃうの」  俺は目を見張った。嫌な汗が背中を伝う。確かに二人の背中を追っていたはずなのに…。 「うわ! 待て松山、早まるな!」  薄気味悪さに動けなくなっていた俺は、宇和島の大声にハッとした。二時の方向に、ライトを構えた宇和島がいた。照らし出された先には松山と新居浜の姿も見える。 「馬っ鹿、よせ! 眩しいだろうが!」  光に目を射られたらしく、松山が苛立ったように怒鳴っている。俺はとにかく他の連中と離れているのが嫌で、西条と一緒に走った。 「新居浜、無事か!?」 「あ、ああ…」  近くに二人の声を聞いて、少し落ち着いた。と、同時に、ライトを向けている方向に違和感を感じた。植物に侵食されているばかりだと思っていた建物が、口を開けでもしたみたいに中の様子をさらけ出している。 「…なあ、さっきの音って、もしかしてこれか?」  力技で窓を割ったらしく、そこら中にガラスが飛散している。窓枠に残ったガラスの破片が、剥き出しの牙みたいだ。おまけに、色の褪せたカーテンがレールから外れて床に落ちてるのが舌っぽくも見える。この家自体が得体の知れない生き物のようでゾッとした。 「ああ、割ったら入れんじゃねえかと思って」 「……」  しれっとした松山の答えにげんなりする。らしいといえばらしい行動だが、本当迷惑な奴だ。  名前の“総司”を捩って“総理”とあだ名がついたのは小学生の時だ。本人はリーダー格で偉いからだと勘違いしていたが、実際は偉そうで自分勝手に何でも決めてしまうところからつけられた。こいつの傍若無人さのせいで、何度迷惑をこうむったことか。 「でも、このまま入ると危ないよ」  割った窓から入りかけた松山を、西条が止めたが、 「…こうすりゃいいだろ」  腕を突っ込んで鍵を開けてしまった。固い窓枠を無理に開けて、一人さっさと上がり込む。 「どーすんだよ、全員来んのか?」  面倒臭そうな物言いに、やれやれと松山を見上げる。そして、俺は、見てしまった。 「ひ…っ」  喉がヒクつく。上手く声が出せない。  なんだ、今のは?  目を凝らしたが、もう見えなかった。でも、確かになにかがそこに居た。
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