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「大丈夫ですか?」
二人は高畑に背後から近づき、声をかけた。高畑はうつむいていた顔をあげる。その顔に涙はない。ミナと有理の姿を認めると、彼女は驚いた顔をした。
「悪魔、さん?」
「ごめんなさい、高畑さん。先ほどの告白、聞いてしまいました」
「あ……そうだったんですね。私、振られちゃいました」
ミナは高畑の顔が妙に明るいことに気が付いた。
「少し、お話しましょうか」
有理が言うと、高畑はこくんと頷いた。
なんだか、吹っ切れちゃいました。はい、彼の「気持ち悪い」と言う言葉。それですっと冷めたっていうか。何で私、こんな人好きだったんだろうと思って。心中? ああ、心中。そう、一緒に死のうと考えてました。いろいろ考えたんですよ、どのように死ぬのが一番いいのか、とか。ええ、でも、もう死ぬ気もさっぱり。なんだか、おかしいですね。すみません、なんだか私、昨日までは、変な考えに取りつかれていたみたいで。もう大丈夫です。
メリーゴーランド前のベンチに三人で並んで座り、有理が買ってきたチュロスを食べた。食べる合間に、高畑は語った。憑き物が落ちたような顔とはこういうことか、と高畑の表情を見ながらミナは思う。心中事件のあっけない幕切れだった。
「ごちそうさまでした。なんか、馬鹿みたいでしたね、私」
チュロスを食べ終えた高畑が礼を言う。
「でも、私、告白してよかったと思います。背中を押していただいて、本当に、ありがとうございました」
「お礼には及びませんよ、これも仕事の一環です」
「なんだか、振られたのに、すがすがしい気分です」
「一つ予言ですが、次の恋は、もっともっと素敵なものになりますよ」
「悪魔の予言、ですか?」
「ええ」
有理と高畑は、まるで旧来の女友達同士のように笑いあう。
「ありがとうございます。あの、今日の分の魂、お支払いしたほうがよろしいですよね」
「大丈夫です。今日はプライベートですから」
「え? 仕事じゃないの?」
それまで黙って高畑の語りと有理の相槌を聞いていたミナは、「プライベート」という言葉に思わず口を挟んだ。すると有理は咎めるようにミナに視線をやる。
「何言ってるのミナ、私たち、今日はデートじゃない」
「え?」
この悪魔は人前で何を言っているのだろう。ミナは思う。
「あ、そうだったんですね。それこそデート中に申し訳ありませんでした。あ、だから今日はお二人とも素敵なお洋服をお召しなんですね」
目の前の人間は何を想像しているのだろう。高畑は涼しい顔の有理と戸惑っているミナを交互に見ては、顔を赤らめていた。
「ええ、そういうこと。だから、ごめんなさいね、私たちそろそろ行きます」
ゆっくりと有理が立ち上がる。
「あ、すみません。この度は本当にありがとうございました」
有理と同じく立ち上がった高畑は、悪魔と天使に向き合い深々と頭を下げた。
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