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少年は、ハッと我に返り、尻ポケットを探り財布を取り出した。
「いくらですか?」
一層おずおずとした話し方になる少年に、有理は微笑みかける。
「いえ、私どもへの支払いは、現金ではなく、貴方の魂でお願いしております」
「魂……」
「ええ。ミナ、お支払いの用意を」
ミナは立ち上がり、リビングの一角に置いてあった水晶玉を取り出した。メロンくらいの大きさの水晶玉で、薄く紫がかっている。水晶玉を、滑り止めのクッションと共に少年の前に置いた。
「この水晶玉に両手を当ててください。大丈夫、痛くないから」
少年は手のひらを水晶玉に押し当てた。一瞬、水晶玉の色が深くなる。
「もう離して大丈夫」
少年が手を離す。水晶玉は元の色に戻っている。
「これで、終わりですか?」
少年がミナを見上げた。
「ええ。きっちり魂でお支払いいただきました」
「あの、僕の魂は、どうなったんですか?」
「貴方の魂は少しだけ軽くなりました。しかし、これくらいの相談料を支払ったくらいでは、今後の人生には何の影響もないでしょう」
「もっとたくさん相談して、魂がもっと軽くなってしまったらどうなるんです?」
ミナは肩を竦めてみせる。
「さあ。死んでしまうとか、悪鬼になるとか言われていますけどね、私はまだそこまで魂を売り払ってしまった人を見たことがないもので」
「私はあるよ」
有理が言った。
「知りたい? 知りたければ、それ相応の支払いをしてもらわないといけませんけど」
営業スマイルが、いつの間にか悪魔の微笑みに変わっていた。見た人をやたら不安にさせる笑顔だ。少年は慌てて首を横に振った。
「大丈夫です。そこまで知りたいわけではありません」
「なんだ、残念」
「あの、僕、そろそろ……」
「ええ、お支払いも終わったことですし、お帰りになっていただいて構いませんよ」
少年はほっとしたように、帰り支度をはじめた。ミナと有理は二人して、彼を玄関まで見送った。それからミナは、リビングに戻り湯呑みを片付ける。少年はお茶にまったく口をつけていなかった。
「爆破と聞いて、期待したんだけどね」
「ま、ありきたりな相談だったね」
「こう、もっと純粋な悪意を持った人間はいないのかな。こんな相談じゃ、魂も全然たまらないし」
「ま、気長にいきなよ」
おざなりに有理を励ましていると、再びインターホンのベルが鳴った。
「ほら、有理、次の依頼人」
「ま、あんまり期待せず、頑張りますか」
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