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ヒッチハイクの若者
「疲れたし、お腹空いた」
徳島市の南端まで続いていた渋滞を何とかやり過ごし、ようやく阿波踊りと縁日の横を通り過ぎる事ができた2人。涼しいぐらいにクーラーをかけた車内の助手席で、彼女は黒いノースリーブのワンピースの、袖口をパタパタさせて冷気を送りながら阿波弁を使いこなす。
夜の8時半の暗さで、彼女の栗色の髪なんてどんな色をしているかぐらいに分からない。ハーフの母に似ているからか、絵に描いたような海の色をした青い目も暗がりに消えていた。…ハンドルと前から目を離せないから、我儘を言う唇しか見えなかった。
「薬王寺の辺りで何か口にしとっても良かったわ」
「その時はまだ、お腹空いたと思ってなくて」
県南の薬王寺の辺りにある道の駅で飲んだ1杯の缶コーヒーでも以外に保つものだ。空腹と仕事場の面倒な先輩は、あまり来てほしくない時にやって来る。
「8時半でこの辺やったら、何があったかな」
運転席の彼は、そう呟きながら信号で停止した。冷たいモノが食べたくても、この近くだとマックシェイクかガストのパフェぐらいしか思いつかない。日頃から手軽な店に行くという習慣が、彼女への気遣いに苦しめられる。
…当の彼女は、"あなたとやったらどこ行ってもええのに"と思っているのだが、女性のそれを真に受けられないだけにその辺りは難しくて仕方がない。
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