紅の鎖

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 「そ、そんな事は知らない。嘘だ」   全く身に覚えがない話に俺は驚愕した。 まさかそんな。弟を犯すなんて。  「そ、そんな事があった様子など全く無かったじゃないか!」  冗談だと言ってくれ。  首を持ち上げてすがりつくような目を和月に向ける。  「俺だって言いたかった。苦しかった。でも言える訳ないじゃないか!あんな事言われたら」  和月は二人が関係を持った次の日の事を涙ながらに話し始めた。  あれから目覚めると夜と共に低気圧は去り、たっぷりとした朝日が出窓から差し込んでいた。激しく求めあった体の火照りを大切に抱いたままシャツを羽織るとソファーで裸のまま眠る陽一にそっとタオルケットをかけた。  これが愛なんだな。などと考えながら陽一の寝顔を眺め、和月はこっそり胸から湧き上がる何かを密かに味わっていた。 「ああ、頭痛てぇ」 しばらくして陽一は目を覚ましむっくりと身体を起こした。  「あ、兄さんおはよう.....」  思わず抱きつこうとした和月が陽一と目を合わせた瞬間、ピクリと足が止まった。 「あれ?何で俺、こんなとこで裸になっているんだ!?い、痛ぇ、頭が痛い。うわぁ全く覚えていないぞ!」  和月は動揺を悟られまいと必死に声の震えを抑えながら問う。 「兄さん。昨日の事は全く覚えて無いのかな?」 「あー!何。何かあったの?全然覚えてない!!あー、痛っ。裸って。あーなるほど女抱いてたのか?和月、昨日誰か来てた?どんな女だったか見た?」  間違いなく本心だとわかるあっけらかんとした口調だった。それから次々に飛び出す陽一の悪気の無い一言は和月の心をナイフの様に切り裂いていく。  「女、女を抱いたと思うのか」  和月の鼓動は激しく脈打っている。  「当たり前だろ?男を抱くわけないだろ。気持ち悪りぃ、有り得ないわ」 和月の心はひと突きにされた。
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