紅の鎖

6/30
前へ
/30ページ
次へ
 こいつは何を言っているんだ。 俺は激しく目蓋を動かした。だが厚手の黒い布に封じられた視界は闇のまま。  『私の名前を言ってごらん。間違えてもいい』  俺を愛している女だと? 俺はゾッとした。自慢じゃないが心当たりが多すぎる。付き合ったばかりの真矢か?いやそれは無い。じゃあ、別れたばかりの律子か?そんな執着するタイプには見えないが。  とりあえず『間違えてもいい』と言っているんだ。試しに言ってみよう。  俺は別れたばかりの律子の名前を挙げた。まあ無難な線だろう。 「律子か?」 シンッ 俺の答えにピンと空気が張り詰める。 ピエロの声の主は反応しない。 無音の時間が再び流れた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加