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夫暗殺計画書
私は夫を愛していたのだろうか。
分からない。
でも、この殺意だけは本物だ。
私はノートを開いて、どす黒い鉛筆を握り机に向かう。スラスラと文字を配置していく。
呪いを込めながら、一文字、一文字……。
〝夫暗殺計画書〟を書き連ねる。
あの日から、毎日、毎日、毎日……。
————
あの日はスーパーの帰りで、両手にエコバッグをぶら下げながら歩いていた。あの人の好きな食材やら、大好物のハンバーグを作る合い挽き肉やらをぶら下げていた。重さの余り、袋が指に食い込んで腕がつりそうになりながらも、頑張って家路を歩いていた。
その時。
反対側の道路の雑踏の中に、見覚えある後頭部を見つけた。いつもはダラし無く着ている背広をピシッと着こなし、隣にはタイトスカートを履いた長髪の女が腕にへばりついていた。頭に熱が集まり、身体中の血液が沸々した。両手の力を緩めると、袋が一気にアスファルトに落ちた。卵が割れた音がすると、私の中で何かが弾ける音が聞こえた。夫はその女と一緒にジュエリーショップに入っていった。
両手を見た。
赤い線の痕が幾重にも付いていて、痛々しい。
私の心に幾重にも刺さりまくる傷痕。
卵の殻の様にヒビが入った心は、もはや修復不可能だ。
お前が割ったのだ。
今まで私がどれだけ頑張ってきたのか分かるか?
お前のために
毎日、毎日、洗濯機を回し
重い袋を提げて
肉をこねて、焼いて、
冷たい水で皿を洗って
アホらしいな、毎日頑張っていた自分が……
———
あの日、芽生えた殺意。
それを目の前のノートに書き連ねた。
ようやく、完成した。
〝夫暗殺計画書〟
それを明日、実行に移す。
思い出いっぱいの八景にて——。
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