ミッション 1

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ミッション 1

「いい景色だな」 隣を歩く夫が呟く。額から流れ出る汗すら憎い。「今日、久しぶりに出かけない?」という誘いにまんまと乗ってきた。 夫と恋人同士の時によく登った山。木陰から差す光が深緑を輝かせて、眩しいほど煌めいていた二人を思い出す。 頂上に着くと、そこには小さな花畑と壮大なパノラマが待っていた。見渡す限りの絶景に声が出なくなる夫。そのまま本当に息が止まったら、すぐに計画終了となるのにな。 さぁ、一回目の暗殺計画実行の時が来た。私は「ちょっと、トイレに行ってくる」と告げ、木陰へ隠れて夫の様子を見る。そして、リュックから小さく折り畳まれたボーガンを出し、ワンタッチで組み立てた。そこに小さな矢を通す。猛毒を塗りたくった矢の先。殺傷能力は充分だ。片目を瞑り、ターゲットに向けて構える。矢は一本しかないから、失敗は許されない。頑張れ!自分!いつもはソファーから動きもしないのに、今日に限ってちょこまかしてやがる。一瞬の静止時にだけチャンスはある。 …… 今だ! 夫に目掛けて矢を放った。 ビュン! 「ん?ウンチ踏んだみたい」 しゃがみ込んだ夫の頭上を、綺麗な弧を描いた毒矢が飛び越していく。 はぁ?ウンチ? 深い溜め息を吐きながら、私はその場に倒れ込んだ。 実行失敗。次のミッションへ移れ! と脳みそが命令をし、私はむくっと立ち上がる。 そして、何もなかったかの様に夫の元へ戻って笑う。夫の靴底からは、得体の知れない激臭が漂って鼻が歪んだ。 夫が突然の発言。 「富士山を見に行こう!」 これも想定内だ。 富士山にて、二回目の暗殺計画を実行す。
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