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ミッション 2・3
下調べしておいた富士山が見えるカフェで、ランチを頂く事にした。ここから見える富士山は絶景だ。夫はやけに楽しそうに、昔の話を持ち出して笑っている。新婚の時はそんな笑顔すら好きなんだと勘違いをして、毎日ドキドキをしていた。目の前の笑顔に苛々が募る。
私は夫の手に自分の手を重ねた。夫の頬がほんのりピンクに染まる。お前は今でもドキドキするのか?ドキドキしすぎて脈拍が上がり、血圧が上昇し、心臓が止まれば計画終了となるのにな。ランチを食べ終え、食後のコーヒーが運ばれてきた直後に夫がトイレに立った。
二回目の暗殺計画実行の時が訪れた。私は周りを見渡し、リュックから小さな試験管を出した。蓋を開けてその中にある青酸カリを夫のコーヒーに入れ、くるくると混ぜ溶かした。
「あースッキリしたな」と夫が帰ってきて、椅子に座りコーヒーを飲もうとしたその時。
ブ〜ン……
どこからかやって来たハエが夫の鼻に止まった。
「うわっぁ!!あっち行け!ケダモノ!!」
夫が首を大袈裟に振ると、コーヒーカップがテーブルへ落ち、茶色い液体が血しぶきみたいに飛び上がる。なんと、全ての毒がテーブルへ流れ出てしまった。
がっくし。しまった……夫は異常な程に虫が苦手なんだった。
実行失敗。次のミッションへ移れ!
と脳みそが命令をし、私はうな垂れた首をのそっと上げた。
まだまだ、想定内だ。ケダモノはお前だからな。そんなお前の為の計画なんだから、それを見込んでちゃんと立ててある。
富士山まで来ると、夫はその山の美しさにまた声が出なくなっていた。まぁ、すぐにその口も聞けなくなってしまうがな。私は夫へ手を伸ばし「さぁ、行きましょう」と微笑んで、樹海へと案内した。
私たちは手を繋ぎ合い、若き頃の様にキャッ!キャッ!しながら樹海を彷徨い歩いた。樹々の間から差してくる日差しが段々と薄くなっていった頃、夫が根っこに躓いて派手に転んだ。私は心配そうなフリをして夫に近寄る。顔面を強打した夫は、額から流血していたが何かに気付いてそれに夢中になった。
よし、三回目の暗殺計画実行の時が訪れた。彼はキノコが大好きなのだ。この樹海には腐るほどのキノコが生きている。そして、魅力的な色合いや魅了的な形のキノコがたくさんあるのだ。夫はそれに夢中になった。
私はその隙に樹海を飛び出した。ネットでちゃんと出口までの行き方は調べてある。樹海の中は奥深い。だから、圏外なので外の世界への連絡手段はない。このミッションが一番の完全犯罪かもしれない。私は「あはははは〜」と笑いながら、スキップをし樹海の外までやって来た。
さぁ、ミッション完了か?
夫よ、さらば。
お前は、なかなかしぶとかった……
「置いてかないでよ!美香!」
はい?
まさかの樹海からの生還。
時々起こしてくる夫の奇跡。
実行失敗。次のミッションへ移れ!
と脳みそが命令をし、私はにこりと微笑み、憎しみを込めて夫を抱き締めた。
まだ、想定内だ……
次こそ、ラストミッション!
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